「最北の秘境駅」として知られる北海道稚内市のJR宗谷線抜海駅が来春、廃駅の見通しとなった。18日の市議会総務経済常任委員会で明らかとなった。

 地元は存続を願い、駅清掃を無償で続けてきた。だが、開業100年イベントを開催した5日後の6月28日に市がJRに方針を伝えていた。地元住民は落胆と憤りを抱える。

 JR北が2021年春のダイヤ改定で廃駅方針を打ち出したのが発端だ。工藤広市長も同調したが、地元の合意が得られず、代替交通の議論も平行線で、工藤市長は毎年のように「廃駅」を口にしながらも、21年度から市が維持管理費を負担し、存続してきた。

 昨年7月、工藤市長は「費用負担は24年度限り」と明言。依然として市は地元が納得いく代替交通を示せずにいたが、開業100年のイベント前後に開いた地元の2町内会への説明会で、「事前予約制の乗り合いタクシー」を提案し、了承を求めた。

 地元2町内会のうち、強く存続を求める抜海町内会の説明会で市は、具体的な運行ダイヤや本格運行の際の自己負担額などは今後詰めていくとし、市長がすでに廃駅方針を明言していると繰り返した。

 乗り合いタクシーは観光客も対象となるが、タクシーで駅舎を訪れる人がいるかは見通しがつかず、駅周辺で唯一の民宿を営む経営者は「死活問題」と訴えていた。

 維持管理費は当初年約100万円を見込んだが、地元が駅舎やホームの清掃などを無償で手がけ、実際は年60万円程度。沿線自治体のようにふるさと納税の活用や観光利用、地元が維持管理費を寄付すると訴えても、工藤市長は一切受け付けなかった。

 抜海町内会の森寛泰会長(61)は「市長は最初から廃駅ありきで何を言っても聞く耳をもたない。地元が無償清掃や維持費を寄付しても残してほしいと言っているのになぜ無視するのか。まだ時間はある。なにかできるはずだ」と話している。

 駅舎は大正建築の風情が残る木造駅舎で、小泉今日子主演のテレビドラマ「少女に何が起ったか」(85年)、最近では吉永小百合主演の「北の桜守」(2018年)など映画のロケにも使われ、列車利用以外の観光客も多く訪れ、稚内の観光名所の一つになっている。(奈良山雅俊)

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