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三者三様のSNS戦略
今回の都知事選では、多くの候補がYouTubeやTikTokなどのSNSを活用していました。しかし、どう活用するかについて、候補ごとに違いが見られました。
選挙での候補者のSNS戦略を調査、分析しているネットコミュニケーション研究所の中村佳美代表に小池氏、石丸氏、蓮舫氏のネット戦略について聞きました。
小池氏と蓮舫氏は「X」と「インスタグラム」を積極的に活用していました。
小池氏はXのフォロワーが90万人を超え、SNSのフォロワー数は、ほかの候補者を大きく上回りました。今回の選挙から、若い世代の利用者が多い「TikTok」のアカウントを新たに開設しました。
蓮舫氏は「インスタグラム」で、愛犬の写真や自宅からのライブ配信など“自然な姿”を発信していました。
中村さん
「小池さんは実績を紹介する動画に加え、これまで知らなかったようなエピソードや人柄を届ける動画も投稿し、中には自宅のルームツアーといったものもあった。多様なSNSを使ったことで、今回、得票にもあらわれたのではないか」
「蓮舫さんは国会での“強い”イメージではなく、自然体の姿を伝えるために、ラフな格好に着替えてから、双方向のコミュニケーションをとるインスタグラムでのライブ配信を丁寧にしていたのが特徴だ」
公式の再生回数上回る“応援アカウント”も
石丸氏は「YouTube」を積極的に活用していました。
特徴的だったのは、本人だけでなく石丸氏を“応援するアカウント”が多くの動画を投稿していたことです。
中村さんによると、公式アカウントのほかに石丸氏の動画を投稿するYouTubeのアカウントは少なくとも16あったといいます。
全て合わせた再生回数は1億5000万回にのぼったということです。
中村さん
「これまでのネット選挙は、本人の投稿などを『リツイート(リポスト)してください』、『シェアしてください』というのが一般的だったが、石丸さんは一歩踏み込んで『切り取ってください』という呼びかけがキーワードになった。陣営がインターネットにあげた公式動画を、支援者などが切り取って編集し、自身のアカウントでアップしていた」
「ネットとリアルの融合において候補の中で群を抜いており、それが若年層にも刺さって無党派層への受け皿につながったのではないか」
特徴は“切り抜き動画”
中村さんが、石丸氏の動画の特徴として指摘したのが“切り抜き動画”です。
候補者陣営が配信した動画などの一部を切り抜いたり、街頭演説などの候補者の映像を切り取ったりしたものです。
映像に目を引くような文字を載せたり、印象に残る言葉をテンポ良く編集したり。支援者らがYouTubeやTikTokに次々と投稿していました。
NHKがTikTokについても調べたところ、少なくとも74本の“切り抜き動画”が見つかりました。
政見放送を切り抜いた動画が500万回以上再生されるなど、再生回数は合わせて6500万回を超えていました(6/1-7/7までに投稿された動画)。
石丸氏の後援会の公式アカウントが投稿した動画は48本で再生回数は合わせておよそ180万回。
“切り抜き動画”は公式動画よりも35倍以上見られていました。
背景にアテンションエコノミーの指摘も
YouTubeやTikTokなど、広告が表示されるSNSでは動画の再生回数に応じて収益が得られる仕組みがあります。
中村さんは、“切り抜き動画”が多く作られる背景の1つには、注目を集めることが収益につながるアテンションエコノミーもあったのではないかと指摘します。
中村さん
「陣営ボランティアを筆頭に、YouTubeなどを中心に話題が広がっていった。“推し”に見立てて動画をアップしていた方もいた。ただ、純粋に応援しているアカウントだけではなくて、同時に切り取り動画でビジネス、再生数を稼ぐ目的の方も中にはいたのではないかとみている」
“切り抜き動画”の危うさも
SNSで拡散された”切り抜き動画”。誰でも編集できる手軽さゆえの危うさを指摘する声もあります。
例えば、小池氏が街頭演説をした時の動画です。
7月5日、新宿駅の南口で小池氏が街頭演説を行った際に、集まった一部の人たちから「やめろ」という声があがり、一時演説が中断しました。
SNSに投稿されたある動画は、小池氏が「やめろ」という声を受けて演説を一時、中断するまでの様子が切り取られ、「本当の都民の声」などというコメントが付けられていました。
一方、別の動画では、小池氏が演説を中断した後、「民主主義のプラットフォームを守っていこうではありませんか」と演説を再開する場面までを投稿し、“拍手と大歓声”とするコメントが付けられていました。
同じものを撮影した動画でも、切り取り方やコメントによって、動画を見た人の印象が変わってきます。
SNSのアルゴリズムで「フィルターバブル」懸念
さらに、SNSならではの注意点も指摘されています。
YouTubeやTikTokなどで動画を見ると、アルゴリズムがユーザーの特性を学習し、それに関連する動画が自動的に表示される仕組みがあります。
自分の興味・関心にあったおすすめの動画が次々と表示される一方で、自分がフィルタリングされた情報の「バブル」(泡)の中にいることに気付きにくくなる現象は「フィルターバブル」とも呼ばれています。
インターネット上の情報の広がりを研究している東京大学の鳥海不二夫教授は、今回の都知事選でも「アルゴリズムによるフィルターバブルがある程度、起きていたと推測できる」と指摘しています。
みずから検索をしなくても、簡単に気になる候補の動画が見つけられる反面、同じ候補者の動画が繰り返し出てくることで、他の候補者の動画を見る機会が失われた可能性があるといいます。
そのうえで鳥海教授は次のように指摘しています。
鳥海教授
「自分が気になる候補のネガティブな情報が見えづらくなる可能性もある。本来であれば、賛否両論を見て候補者について正しく理解し、その上で投票するというのが本来の姿だ思うが、そういったことはなかなか難しくなるのではないか」
また、SNSなどでは自分と同じような考え方ばかり見聞きしているうちにその考えが正しいと思い込む「エコーチェンバー現象」も起こりやすいといいます。
鳥海教授は「自分たちがいまフィルターバブルやエコーチェンバーのなかにいるんだということを認識したうえで、いま自分が見ている情報がどういうものなのかというのを改めて理解し直すことが必要です」と指摘します。
そして、アルゴリズムによっておすすめされるものだけに頼るのではなく、
▽まず自分で検索する
▽複数のメディアの情報を見比べる
▽異なる見方や心地よくない情報も受け入れる
などの方法を試していくことが大切だと呼びかけています。
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