昨年度、過去最多となったクマによる人的被害に対応するため、環境省は鳥獣保護管理法を改正し、市街地での猟銃使用の要件を緩和する方針を固めた。同省は8日の専門家検討会で対応方針がまとまったことを受け、早期の法改正を目指す。本年度もクマによる被害は相次いでおり対応は待ったなし。とはいえ、街中での猟銃使用が効果的な防止策となるか。(宮畑譲)

◆「人身被害の恐れ」「建物に侵入」「箱わなで捕獲」が銃猟の条件

山林に現れたツキノワクマ=岐阜県飛騨市で(岐阜県提供)

 「現状の問題に対する画期的な改正につながると期待している」。8日に開かれた環境省の専門家検討会で、座長を務めた酪農学園大の伊吾田宏正准教授がこう述べた。終了後には報道陣に「大きな前進。ますます地域の役割分担、国の支援のあり方も問われるようになる」と付け加えた。  現在、住宅密集地などでの猟銃使用は原則禁止で、ハンターらが銃猟できるのは、警察官が警察官職務執行法に基づいて命じた場合などに限られていた。  鳥獣保護管理法改正で(1)大型獣による人身被害のおそれが生じている(2)建物内にクマが入り込んでいる(3)クマを箱わなで捕獲した場合―で銃猟を可能にする。

◆2023年度の人身被害は最悪だった

 環境省がクマ対策に力を入れるのは、昨年度に多くの人的被害が出たからだ。  昨年度、クマによる人身被害は219人(死者6人)で、記録の残る2006年度以降、最多だった。本年度も4月から6月末までで、人身被害34人(死者2人)が出ている。5月末までの出没情報は3032件に上り、昨年度のペースを上回る。住宅街での出没も多数報告されている。  4月には省令改正でクマをニホンジカ、イノシシに続く「指定管理鳥獣」に追加。捕獲や生息状況の調査などが国の交付金の対象となった。  今回の対応方針では、法改正の留意点として、捕獲関係者の安全確保や、撃った先に人がいないかといった発砲可能な条件の整理のほか、事故が起きた場合の補償について検討する必要性などが挙げられている。

◆法改正したからと言って狩猟者の増加につながるのか

 法改正の方針は固まったものの、実際の対応の難しさを問う声は検討会の委員からも上がる。  合同会社・東北野生動物保護管理センターの宇野壮春代表社員は「現場責任者の負担は今後の課題。(市街地の発砲が)できるようになった時、狩猟者を増やせるのか」と指摘。兵庫県立大自然・環境科学研究所の横山真弓教授も「自治体の現場責任者の不安の声が多数ある。現場の体制、仕組みを作り上げていかなくてはならない」と訴えた。

◆「人とのすみ分けを強化する方が大切だ」

 委員ではない専門家からも、市街地での銃猟だけでは根本的な解決にはならないとの意見がある。  石川県立大の大井徹特任教授(動物生態学)は「市街地でクマが出没した場合、住民に大きな被害が出る可能性があり、速やかに捕獲する必要がある。クマの分布が拡大し、人と隣りあって生活している状況だ。市街地出没はいつ起きてもおかしくない」として、法改正はやむを得ないとの見方を示しつつ、人とクマが遭遇しないような対策に力点を置くべきだと強調する。  「市街地での発砲はさまざまな危険が伴う。そもそも、人里に出没する個体が出ないようにするべきで、クマを山奥に押し戻し、人との住み分けを強化するほうが大切だ」 

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