選挙の候補者たちの顔ぶれに若い人がいれば、10代の投票率は上昇する。そんな傾向が実際の選挙結果の数字に現れていると、若者の政治参加を促すグループ「NO YOUTH NO JAPAN」(NYNJ)の20代のメンバーらが明らかにした。 裏返せば、候補者に中高年が多いことで、若い世代の投票の意欲が減っていることをうかがわせる結果だ。メンバーたちは問いかける。 「若者世代の投票率が低いのは、若者たちだけのせいですか?」

◆20代の候補者が1人増えると…

東京都知事選のポスター掲示板の前に立つNO YOUTH NO JAPANの足立あゆみさん(右)と沼子真生さん=7月3日、東京都新宿区で

分析は若い世代について研究する「YOUTH THINKTANK」の活動の一環。日本総合研究所の助言を受けながら、NYNJのメンバーらが取り組んだ。 2019年と23年の統一地方選で実施された東京、神奈川、埼玉、千葉の4都県の市区町村の議員選挙を対象にした。選挙管理委員会への問い合わせなどで年代別の投票率を入手できた112市区町を分析した。 すると、候補者のうちの20代の割合が1%増えると10代の投票率が約0.16%上がる、という計算結果が出た。 つまり、候補者が10人の選挙なら、20代の候補者が1人増えれば、10代の投票率は約1.6%上がると推定されるわけだ。 65歳以上の高齢者の人口が約3割を超える29市区町に絞ると、若い世代の投票率の上昇傾向がさらに強まった。10代だけでなく、20代の投票率の上昇につながる傾向も見られた。 一方、候補者の平均年齢や新人候補者の割合と、10代や20代の投票率との関係性は見られなかった。今後、対象を増やして分析を深めるという。

◆中高年の候補は「同じような顔に見える」 なぜなら…

今回の結果は、分析に関わったメンバーらにとっては「肌感覚に近い」ものだった。

政治や社会の話をするNO YOUTH NO JAPANの足立あゆみさん(右)と沼子真生さん=7月3日、東京都新宿区で

NYNJ共同代表の足立あゆみさん(22)は、若い候補者が出た選挙で「政治の話をSNSに挙げない友達が、『推しの候補者』みたいに挙げていて、びっくりした」と振り返り、「若い候補者が出ることで初めて関心を持つ人は、全然いる」と語る。 一方で、中高年の候補者たちは「同じような顔に見えて、浮かび上がってこない」のが正直な感覚だという。若者の切実な困り事を分かってくれると、なかなか思えないからだ。 高度経済成長期を若者として過ごし「親より裕福になれる」と思えていた年齢層の人は、親よりも収入が減りそうで「親みたいに子育てできる自信がない」と感じる自分たちの不安を分かってくれるだろうか。まだまだ深刻化していく気候変動への不安に共感してくれるだろうか。 2022年6月、18~29歳5000人に実施したインターネットアンケートでは、国や地方の政治の現状に満足していない人が46.5%いた。「自分の将来に漠然とした不安がある」とした人は55.0%に上った。 それなのに、若い世代の投票率は低い。メンバーたちは、20代以下の若者には将来の不安を和らげるために選挙が有効だと思える人たちが少ないんじゃないか、と推測する。

◆「30歳の壁は大きい」

7日に投開票された東京都知事選は、有権者が1100万人を超える国内最大の首長選で、自分の1票にどこまで重みがあるのか想像しづらかったかもしれない。 候補者56人は40代や50代が多く、30代は70代と同じ8人だ。そもそも30歳以上しか立候補できないので、20代はゼロ。若者には、なおさら遠く思えそうだ。 NYNJメンバーの沼子真生さん(21)は「(立候補できるのが)30歳からという制約がついていると、自分の声を本当に聞いてもらえるのかなとか思う」と打ち明ける。 沼子さんは立候補できる年齢の引き下げを求める活動をしている。「30歳という壁は大きいです。若ければいいわけではないと思っていますけど、選択肢の幅が広がるのが大切だなと思う」と語った。

立候補の年齢制限 総務省によると、国会議員や自治体の首長、議員の選挙に立候補するには、年齢などの条件がある。
満30歳以上が条件・・・都道府県知事、参議院議員
満25歳以上が条件・・・市区町村長、衆議院の議員、都道府県議会の議員、市区町村議会の議員
投票できる「選挙権」の年齢は2015年の公職選挙法の改正で、「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げられたが、立候補できる年齢は変わらなかった。

◆若者は多様で、悩みも人それぞれだから

教育、奨学金、アルバイト、就職…。若い世代の抱える困りごとや悩みはさまざまで、人それぞれ違う。 6月中旬、NYNJが今回の分析結果をお披露目したイベントでも、参加した若者たちの訴えは多様だった。パレスチナ自治区ガザでの争いに心を痛める人、収入が少ない生活苦を語る人もいた。

10代、20代の投票率についての分析結果が発表されたNO YOUTH NO JAPANのイベント=6月13日、東京都港区で

若い世代の立候補が当たり前になり、候補者の多様性が広がれば、若い世代の多彩な悩みに共感できる候補は増えるはずだ。 NYNJメンバーの沼子さんは「投票に行って変わるんだ、議会で代弁してくれて物事が変わるんだという実感を、若者は全然、持てていない」と語り、政治の仕組みの改善に期待する。 分析に関わった別の23歳のメンバーは、都知事選に候補者が乱立し、一部は売名目的などではないかと指摘された状況を話題にした。 立候補年齢の制限は乱立の歯止めになっていないとし、「良い政治家になれる若い候補者の可能性をシャットダウンするのはもったいない」と話した。

◆「女性が差別されていたのと同じだ」

NO YOUTH NO JAPANのイベントに参加した戸田善恭弁護士=6月13日、東京都港区で

国に立候補年齢の引き下げを求める訴訟で原告弁護団長を務める戸田善恭弁護士(38)は6月のイベントでマイクを握った。 若者の立候補を「思慮分別がない」「社会経験がない」などと年齢で制限する根底には偏見があると指摘。女性の参政権が「婦人は知力、体力において男子に劣る」などの理由で認められなかった歴史と重ね合わせて、「参政権で女性が差別されていたのと同じだ」と訴えた。(デジタル編集部・福岡範行) 

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。