7日に投開票が行われた東京都知事選では、少子化対策が大きな争点となった。1人の女性が一生のうちに産む子どもの数の指標である2023年の「合計特殊出生率」で東京都が0.99となり、全国の都道府県で最下位だったためだ。だが、若い女性が流入する都市部では、出生率は低くなる傾向がある。人口動態の専門家は「人の移動がある状況下では、出生率と出生数の相関があまりない」として、再選した小池百合子知事に対して、客観的なデータに基づく対策を求めている。(白山泉、桐山純平)

◆未婚女性が就職時に東京へ転入してくるインパクト

 合計特殊出生率は、15~49歳の女性について、各年齢の出生率(生まれた子どもの数を女性の人口で割った数値)を足しあわせて算出する。分母に当たる女性には既婚者だけでなく未婚者も含まれる。  人口動態の専門家であるニッセイ基礎研究所の天野馨南子(かなこ)氏は「東京の出生率が低くなる要因は、地方の未婚女性が就職する段階で大量に東京に転入してくることに尽きる」と強調する。分子に当たる生まれた子どもの数に比べ、分母の流入する女性の方が圧倒的に大きくなるわけだ。  上智大経済学部の中里透准教授は「配偶者がいる女性に限った出生率で見ると東京都区部は全国平均よりも高い。合計特殊出生率だけに注目すると人口減の本質を見誤り、解決策が見つからない懸念がある」と指摘。最下位の出生率に対して、出生数は前年比5.2%減と、全国平均(5.6%減)よりはましだ。

◆出生率が高くても流出が多ければ人口は減ってしまう

都道府県別の合計特殊出生率とその他の統計

 一方、出生率の高さが、出生数の多さを示すわけではない。18~22年の市区町村別の出生率で全国トップの鹿児島県徳之島町は「2.25」だったが、国勢調査では20年までの5年間で同町の人口は減少した。  人口の流出入が比較的小さい日本全体では出生率を参考にできるものの、就学・就業時に人の流出入が激しい自治体別の出生率は少子化の実情を表すとはいえない。厚生労働省の担当部局は、自治体別の出生率について「あくまで以前から算出している一指標だ」と話す。

 0.99ショック 厚生労働省が公表した2023年の人口動態統計で、東京の合計特殊出生率は0.99。15、16年に1.24だったが、その後は下がり続けている。23年は全国でも過去最低を更新する1.20だった。

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◆東京の課題は全国平均よりひときわ高い未婚率

 東京都の小池百合子知事の少子化対策はこれまで、高校授業料の実質無償化や18歳以下への月5000円の給付など家計支援が目立った。だが、ニッセイ基礎研究所の天野馨南子氏は「必要なのはこれから出産する未婚の若い世代への政策だ」と強調。家計支援だけでは出生数の増加に限界があるとみる。(白山泉)

ニッセイ基礎研究所の天野馨南子氏

 少子化関連のデータで東京の課題を如実に示しているのが未婚率の高さだ。25〜49歳では45%を超え、全国平均よりもひときわ高い。行政が出会いの場を提供するのも一つだが、カップルとして経済面で安定した家庭を持てるようにするため、女性の所得水準を上げるような企業側の体制整備も必要だという。  経済協力開発機構(OECD)によると、日本の男女間賃金格差は21.3%で、加盟国の中で差が大きい方から4番目。国際的にも際立つ男女間の賃金格差を是正することで、天野氏は「企業内に経済的に対等な男女が増え、今の若者が理想とするパートナーが見つかりやすくなる」と主張する。

◆若い女性が地方に定着するために必要なこと

 人口戦略会議は今年4月に発表したリポートで、人口の自然減を他の自治体からの流入で補っている「ブラックホール型都市」として、豊島区や新宿区など東京23区のうち16区を分類した。東京への一極集中批判について、天野氏は「若い女性は東京の方がスキルアップの機会が多いから集まっている」と、自然な流れだと指摘する。  では、東京への一極集中解消と全国の出生数を増やすにはどうすればいいのか。「東京の企業が手本となり、女性活躍を推進する企業が各地に増えれば、若い女性も地方に定着するようになる」と天野氏。とりわけ、東京の周辺自治体に対して「子育て世帯の家計支援のみを重視し過ぎると、財力のある東京都との競争で疲弊するだけだ」と懸念する。 

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