東京大が検討中の授業料値上げを巡り、21日夜にあった藤井輝夫学長と学生の「総長対話」。国からの運営費交付金の削減が、大学経営の圧迫を招いたとの認識では一致したものの、値上げを「待ったなし」と強調する大学側に対し、学生側は「責任転嫁だ」と反発。結論は出なかった。終了後、本郷キャンパス(東京都文京区)の安田講堂前に、納得がいかない100人ほどの学生が集結。深夜の大学に警察官が臨場する、異例の事態となった。(西田直晃)

◆オンラインで約2時間、藤井学長は言質を与えず

 「来年からの授業料値上げを行わないことを確約してください」

安田講堂前で藤井学長との直接対話を求める学生ら

 オンラインで約2時間にわたり行われた総長対話で、男子学生が藤井学長にこう迫った。「検討中の案を今日は示している」「さらに検討を進めていく」と藤井氏。言質を与えず、歯切れの悪い回答に終始した。今後については「対話の機会がまた設けられないか検討したい」と述べる一方、「約束はできない」とも。「トップダウンは考えていない」と苦しげな胸中を吐露した。  現在の東大の授業料は、標準額とされる年53万5800円。藤井氏は、教育環境の向上と物価高騰への対応のため、文部科学省令で認められた上限の約10万円の引き上げを検討しているとした。「支出の抑制には努めてきた」と話し、前年度比で約25億円の削減を実現したと強調した。  また、授業料が2005年度から据え置かれたため、「数百億円の投資を控えざるを得なかった。断念した教育事業があった」とも。値上げによる増収額は約29億円。大学側は経済支援策拡充の方針も示し、世帯所得が年間900万円以下の学生には、既存の制度を改良する形で減免措置を設けるという。

◆「国の交付金削減が経営圧迫」で認識は一致

 これに対し、14人の学生が質問した。学生側、大学側の双方は「国が主導した運営費交付金の削減」が大学経営の圧迫を招いたとの認識では一致。東大の2024年度の運営費交付金は約802億円で、法人化後の2005年度から16%減った。「大学対学生ではなく、大学対国の問題だ」とただした男子学生もいた。藤井氏は「国立大全体に関わる」と説明し、「社会全体で高等教育をどう支えるか、議論を広げる必要がある」と応じた。  この日の結論は持ち越されたが、学生の抗議の姿勢は教職員にも広がりを見せている。総長対話を前に、東大教養学部学生自治会は「値上げ撤回」「学長との継続的な交渉」など4項目の決議を採択し、21日時点で143人の教職員が実名を出して賛意を示した。

◆対面求め「総長出てこい!」

 「こちら特報部」の取材によると、オンラインによる総長対話を終えた午後9時すぎ、対面を求めて安田講堂前に約100人が集結。学外者も交じる中、教養学部2年の鈴木颯人さん(19)は「『対話』の意思は全く見えなかった」と憤慨した。暗がりの中で突然、故アントニオ猪木さんの入場曲が流れ出し、学生は「総長出てこい!」「会えよ!」と口々に叫んだ。学生の一部は酒を飲み始めた。

総長対話の直前に安田講堂前で開かれた集会=21日、東京都文京区の東京大で

 午後10時ごろ、女性が「要請行動を始める」と号令を掛けると、約30人が講堂の正門前に詰め寄り、大学職員と警備員の計5人に学長との直接対話を求めた。東大生の男性の1人は「あなたたちも反対するべきでしょう」と訴えた。10時15分ごろ、職員の姿は見えなくなり、学生と男性警備員は東大生協の話題などで談笑。「私も会員だ」「本も1割引きで買える」などと話していた。その後、誰かが講堂に入り、11時までに警視庁本富士署員が臨場した。  東大広報部は「学生を含む複数人が講堂に侵入し、制止しようとした警備員がけがをした」と発表。現場にいた学生は「警備員への傷害はない」と話している。署によると、大学関係者から通報があり、当時の状況を調べている。 

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