◆前夜から「復縁できなければ殺そう」
横浜地方裁判所
西野吾一裁判長は判決理由で「復縁が困難となってやり場のない思いを抱いたことは理解できるが、自分の気持ちばかり優先した」と指摘。犯行前夜から当日朝に「復縁できなければ殺そう」と独り言を言っていたことなどから「全くの突発的、衝動的なものではない」と述べた。弁護側は被告の発達障害の影響を訴えたが「さほど影響したとは考えがたい」と退けた。 判決によると、昨年6月29日、冨永さん宅に侵入し、駐車場近くで首や胸などを包丁で4回刺して殺害した。◆両親「納得できない。軽すぎる」
判決を受け、冨永さんの両親は「納得はできない。人の命を奪った行為に対する罪としては軽すぎる」とのコメントを出した。 ◇ ◇◆たびたび暴行、県警が4回出動したが
「好きという気持ちが強く、裏切られたことが原因。どうしてもやめられなかった」。冨永さんとの交際中、ドメスティックバイオレンス(DV)を繰り返した伊藤被告は、これまでの公判で「なぜ好きなのに暴力を振るうのか」と問われ、言葉を振り絞った。 被告人質問などによると、2人は2021年3月ごろからの交際当初「異性と必要以上に連絡を取らない」「位置情報共有アプリを使う」と約束した。伊藤被告は冨永さんの「異性関係」を理由にたびたび暴行し、事件の1週間前には距離を置くよう求められた。その後も突然アルバイト先を訪れ「怖いからやめて」と拒絶されたこともあった。 暴力やけんかを巡り、神奈川県警が4回出動。だが、冨永さんが「仲直りした」などと説明し、被害届を出さず、踏み込んだ対応は取らなかった。事件当日も自宅に侵入した伊藤被告を「かわいそうだから」と警察への通報を控えた。事件はその直後に起きた。◆被害者自身も通報しづらい傾向が
恋人間の暴力「デートDV」防止に取り組むNPO法人「エンパワメントかながわ」(横浜市)の阿部真紀理事長は「好きだから支配して良いと錯覚し、エスカレートする例は多い」と話す。交際に関わるだけに被害者も自分を責め、関係機関に相談や通報をしづらい傾向があるという。 内閣府の23年度調査で、交際相手からの暴力は18%が経験。女性の23%が「命の危険を感じた」と回答した一方で、被害者の4割はどこにも相談していない。DV防止法には接近禁止命令の規定があるが、被害者の申し立てが前提となる。◆早い時期から予防教育を
警察庁によると、配偶者や同居する交際相手からのDV被害の相談と通報は、昨年8万8619件(前年比4123件増)で、20年連続で最多を更新。阿部理事長は、交際相手を尊重する大切さを小中学校などで教える台湾を例に「日本も学校で専門家の予防教育を取り入れてほしい」と願う。国は昨年9月に策定したDV防止のための基本方針で、加害者の意識変革を促す更生プログラムを重要施策としたが、実施する民間団体は少ない。(米田怜央) 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。