フラット35 住宅金融支援機構が提供する長期固定低金利の住宅ローン。本人や親族の居住を条件に、機構と提携する民間金融機関が住宅購入資金を融資し、機構が債権を買い取る仕組み。2003年に取り扱いが始まり、22年度末までに約136万件の利用があった。
◆業者の言うまま「投資」…急に3000万円返済求められ
「当時は無知で、何が問題かも知らなかった」。神奈川県の30代会社員男性は2020年3月、不動産業者の勧誘を受けて県内の中古マンションを約3000万円で買った。目的は家賃収入を見込んだ投資だった。 ローン選びは業者に一任。フラット35の利用に関する説明はなく、自ら契約書を書いたが、「どんなローンを組んだのかも理解していなかった」。だが契約から1年半後、不正が確認されたとして、機構から残債の一括返済を求める予告が届いた。 業者は「無視すればいい」と言い張っていたが、やがて「勧誘した人間はうちの社員ではない」と責任逃れを始めた。男性は「一括で3000万円も返済できるわけがない。どうすればいいか」と頭を抱える。◆不正を自覚したときには…業者はドロン
フラット35は、個人の住宅取得が対象の固定金利ローン。居住目的以外では利用できないが、2019年に投資目的の悪用が横行していることが発覚、機構が審査や注意喚起を強化した。しかし、東京新聞の取材では、対策強化後の20年3月~22年9月でも、フラット35を悪用したケースは複数ある。 北関東の20代男性は、22年春に不動産業者に勧誘され、一戸建て住宅購入の際、フラット35を使った。機構と提携する金融機関とローン契約に臨む前には、業者から「物件に住むか聞かれたら、はいと答えて」と言われ、契約の場でその通り答えて審査を通過した。 契約の際、業者は男性に対し、居住を偽装するために住民票を購入物件に移すよう指示。さらに男性に無断で、無関係の女性の住民票も一時的に移し、2人分の住民票を金融機関に提出していた。「フラット35」の申請手続きで、不動産業者が金融機関に提出していた申請者らの住民票。左は申請者の男性のものだが、右の女性の住民票は男性に無断で提出されていたという=一部画像処理
後に不正を自覚した男性は「婚約者との同居を装い、審査の目を逃れようとしたのではないか」と推測する。業者は住所地の東京都千代田区のレンタルオフィスから退去し、連絡が取れなくなっているという。◆「ウマい話」に潜むワナ、まずは周囲に相談を
審査を厳しくしても、いぜんとして低金利のフラット35を投資用物件で悪用し、知識のない一般人を不正に巻き込む不動産業者の手口は後を絶たない。機構は東京新聞の取材に「不適正利用の特徴に該当する申し込みは慎重に審査している」と回答したが、それだけでは防げなそうだ。 消費者被害の救済に取り組む一般社団法人「リボーン」(新宿区)の冨谷皐介代表(54)は「業者にとっては、審査が甘いフラット35を使わせれば実勢価格より割高な物件でも売れて利益が出る利点がある」と指摘。「情報弱者の若者をだまして借金苦に引きずり込む手口だと思う。安易に業者の『良い話』に乗らず、まずは周囲に相談してほしい」とアドバイスする。 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。