口コミ投稿欄で高評価をつけることを条件に料金を割り引いたのは「ステルスマーケティング(ステマ)」に当たるとして、消費者庁は7日、東京都内の医療法人に景品表示法違反で再発防止の措置命令を出したと発表した。2023年10月に導入された規制に基づく行政処分は初めて。

口コミサイトなどへの投稿を条件に値引きやサービスを提供する事業者や店舗は一定数存在するが、今回のように投稿内容まで指示した場合にはステマとみなされる可能性があり、事業者や店舗は注意が必要だ。

消費者庁によると、医療法人祐真会が運営する「マチノマ大森内科クリニック」(東京・大田)でインフルエンザワクチン接種目的の来院者に対し、インターネット上の地図サービス「グーグルマップ」に星5つ(満点)または星4つの評価を投稿することを条件に接種料金を割引していた。

同クリニックの口コミ投稿件数は500件超。総合スコアは星3つだったが、実際に「イマイチな印象だったが星5のレビューをすれば550円OFFと案内があった」などとして満点を付けた投稿が45件あった。

同庁は口コミがステマ広告に当たるとして、同法人に対して6日付で不当表示の行為を取りやめることや再発防止策を講じることを求めた。

金銭などの対価を受け取り、レビューサイトやSNSに高評価の口コミを投稿するステマは消費者の誤認を招くとして近年、社会問題化した。政府は23年10月、景品表示法が禁じる不当表示に当たる行為としてステマを規制した。

違反に当たるのは事業者などの広告主が①広告であることを隠し②対価などを提供して好意的な投稿を依頼する――といった行為だ。

違反があった場合、消費者庁は広告主に措置命令を出す。従わなければ2年以下の懲役または300万円以下の罰金などの刑事罰が科される。投稿者側は処分されない。

規制の導入当初、主に想定されていた投稿者はSNSなどで大きな影響力を持つ「インフルエンサー」だった。22年に動画投稿アプリTikTok(ティックトック)の日本の運営会社がインフルエンサーに報酬を支払い、特定の動画を一般投稿のように紹介させていたとして謝罪した。

今回、問題になったのは一般消費者による口コミ投稿欄への投稿だ。投稿欄を見た人はクリニックから便宜を受けた上で書き込んだものか判別することは困難なためクリニックによるステマにあたると認定された。

初の適用事例が出たことで、事業者側は一層の対策が求められる。口コミサイトなどへの投稿を促すだけなら問題ないとみられるが、投稿内容を縛った場合にはステマとみなされる可能性がある。

書き込み内容を具体的に指示しなかった場合でも、事業者と投稿者とのやりとり、金銭や物品提供といった対価を踏まえ、規制対象となる「事業者による表示」と判断される恐れもある。

インフルエンサーらのSNSへの書き込みなら「広告」や「PR」といった文言を入れることで問題を回避できるが、口コミサイトの場合は難しい。

一般消費者も今回のような書き込みがステマに当たるとの認識を持つ必要がある。消費者庁は「事業者から働きかけがあっても受け入れないでほしい。もし違反が疑われる広告などを見つけたら情報提供してほしい」と呼びかけている。

▼ステルスマーケティング SNSで影響力のある「インフルエンサー」などに金銭などの対価を提供し、公平な口コミを装って自社の商品やサービスを好意的に紹介してもらうなど、広告であることを隠して商品やサービスを宣伝する行為。消費者が広告かどうかを判別するのが難しいと認められる場合は景品表示法が禁じる不当表示に当たる。規制対象となるのは広告主の事業者で、依頼を受けた消費者やインフルエンサーは対象外となる。

【関連記事】

  • ・ステマはなぜ問題なの? 法規制スタート、実効性が課題
  • ・始まったステマ規制、企業の口コミ宣伝に転機

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。