軍事転用可能な機械を不正輸出したとして逮捕・起訴され、後に起訴が取り消された機械製造会社「大川原化工機」(横浜市)の大川原正明社長(75)らが東京都と国に損害賠償を求めた訴訟の控訴審第1回口頭弁論が5日、東京高裁であった。社長側は、警視庁公安部が立件目的で証拠ねつ造などの違法な捜査をしたとし、捜査の悪質性についての一審の認定は不十分だと主張した。

◆新証拠は打ち合わせメモ「公安部が識者の見解ねじ曲げさせた」

 都と国は「違法な捜査はなかった」として計約1億6000万円の支払いを命じた一審判決を破棄し、請求の棄却を求めた。

口頭弁論後の記者会見で「裁判を早く進行してほしい」と話す大川原正明社長(左から2人目)ら=5日、東京・霞が関の司法記者クラブで

 問題となった噴霧乾燥機の輸出を規制する要件の一つである殺菌の定義について、経済産業省は明確な解釈を持っていなかったため、公安部は有識者から聴取を行い、同社の機械が規制に該当すると解釈。社長側は弁論で、同省が当初、同社の機械を規制対象とすることに否定的な見解だったが、公安部が有識者の発言を加工した報告書を作成するなどして「見解をねじ曲げさせた」と主張し、捜査の悪質性を強調した。報告書や捜査員と経産省職員との打ち合わせメモなどを新証拠として提出した。

◆国と都は「捜査は適法」と主張

 これに対し、都側は起訴が取り消しになったことは「真摯(しんし)に受け止めている」としつつ、「殺菌」の解釈は適切で捜査は適法だと主張した。国側も、東京地検が当時の証拠を基に起訴したのは適法だと主張した。  社長側と都側は当時の公安部捜査員計11人を証人申請した。社長側申請の2人のうち1人は経産省との打ち合わせに参加した捜査員、都側申請の9人には有識者の聴取を担当した捜査員が含まれる。高裁は7月下旬の進行協議で、採用するかどうか判断する見通し。  閉廷後に記者会見した大川原社長は「(都や国は)不都合なことは切り捨てている印象だ。裁判を早く進め、結論を出してほしい」と述べた。  昨年12月の一審東京地裁判決は、公安部の殺菌を巡る解釈について「不合理でない」としたが、捜査の過程で機械内に「完全に殺菌できない箇所があると認識しながら、再実験をしなかったのは捜査不足であり違法」とした。(中山岳)

 大川原化工機を巡る訴訟 警視庁公安部が2020年3月、国の許可を得ずに噴霧乾燥器を中国に輸出したとして、外為法違反容疑で大川原化工機の社長ら3人を逮捕し、東京地検が起訴。3人のうち元顧問の男性は勾留中に体調を崩し、72歳で亡くなった。地検は初公判直前の2021年7月、犯罪に当たるか疑義が生じたとして2人の起訴を取り消した。社長らは同9月、逮捕・起訴は違法として約5億6000万円の賠償を求めて提訴し、東京地裁は昨年12月、国と東京都に計約1億6000万円の支払いを命じた。



鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。