能登半島地震で被災し、石川県輪島市門前町の仮設住宅で1人暮らしをしていた70代の女性が室内で亡くなっていたことが、市などへの取材で分かった。5月20日に見つかった。市や県警は死因を明らかにしていない。県によると、地震後の仮設住宅で死者が判明したのは初めて。市災害対策本部の山本利治企画振興部長は「状況から見て、孤独死と判断せざるを得ない」と話した。

70代の女性が室内で亡くなっていた仮設住宅=28日、石川県輪島市で

 市などによると、市内に住む40代の長男が20日に「(女性と)連絡が取れない」と県警に相談。長男と警察官が同日、仮設住宅の窓を割って部屋に入り、女性が床に倒れているのを発見した。医師が駆けつけ、その場で死亡を確認した。

◆持病はあったが、体調に問題なかった

 女性は地震後、市外にある長女宅で3カ月ほど避難生活を送った後、4月12日に仮設住宅に1人で入居した。市内に長男が住んでいたが、女性は「子どもの負担になりたくない」と同居を望まなかったという。保健師が最後に女性を見回ったのは4月23日で、持病はあるものの、体調に問題はないと判断した。  能登半島地震の仮設住宅でのいわゆる「孤独死」は今回が初めてとみられる。馳浩知事は「大変残念なことで、心よりお悔やみを申し上げたい。被災者の健康状態の把握や見守り支援を実施していかなければならない」と述べた。市災害対策本部の山本部長は「このようなことが起きたのは本当に残念。巡回を強化し、仮設住宅でのコミュニティー組織を作り、再発を防ぎたい」と話した。(脇阪憲)   ◇

◆悔やむ遺族「もっと気にかけていれば」

 亡くなった女性の長男は「もっと家族で気にかけていればよかった」と仮設住宅で旅立った母を思い、悔しさをにじませた。  女性が暮らしていた輪島市門前町の仮設住宅を最後に訪れたのは5月17日。町内での仕事後、部屋の呼び鈴を鳴らした。室内からテレビの音声が漏れていたにもかかわらず、女性の反応がなかったことに違和感を抱いたものの、そのまま市内の自宅に帰った。  その後は電話してもつながらず、20日に警察に連絡。遺体が室内で見つかった。女性に持病はあったが、不調を訴えることはなかったという。長男は「もっと早く見つけてあげたかった」と唇をかんだ。  女性は15年ほど前に夫を亡くして以来、町内で1人暮らしをしていた。長男が孫を連れていくと、喜んでかわいがっていた。「子どもや孫思いの優しい人だった」と悼んだ。  女性宅近くの仮設住宅に住む男性(70)は16日朝、女性がごみ出しに行く姿を見た。「いつも通りつえをついて歩いていたが、元気そうだった。同じ仮設住宅に誰が住んでいるかを話した」と振り返る。男性が4月中旬に仮設住宅に入居してから、ごみ出しで顔を合わせた際に数回話したという。「誰とでも話す気さくな人だった」としのんだ。(脇阪憲、岩本雅子)   ◇

◆早期のコミュニティーづくりが重要

 「複数人で暮らした避難所から、仮設住宅に移ったばかりのこの時期が怖い」。行政や社会福祉協議会などと協力し、輪島市などの仮設住宅を巡回している「青年海外協力協会」(JOCA、長野県駒ケ根市)の堀田直揮事務局長(48)は危機感をあらわにする。仮設住宅の住民同士の関係がまだ構築できていない時期は、体調変化に気付かれにくいという。  東日本大震災でも仮設住宅の巡回をしたJOCAによると、過去の震災では仮設住宅で1人暮らしの高齢者が亡くなる事案が相次いだ。JOCAは市町の保健師と連携し、仮設住宅を巡回しているが、人手が不足。同じ住宅に週2回訪れるのが限界で、持病があるなどリスクの高い住民の情報共有も不完全だと明かす。  堀田事務局長は対策として、住民同士の関係を築くコミュニティーセンターの早期設置を要望。「日常的に人が集まる施設をつくり、住民がお互いの異変にすぐ気付けるような関係づくりが重要」と話した。(柴田一樹) 

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