アンケート調査に2391人が回答

東京や大阪、福岡など10府県でひとり親で所得の低い世帯を対象に米やレトルト食品などを配付している認定NPO法人では、物価上昇が続く中、先月の利用者は3633世帯で過去最も多く、2131世帯だった去年4月と比較すると1.7倍にのぼりました。

このNPOではことし2月に、物価の上昇を受けて利用者にアンケート調査を行い、2391人が回答しました。

回答した人の55.2%が非正規雇用で働いていて、就労による年収は300万円未満が93.1%を占め、その中でも100万円以上200万円未満が最も多く43.4%でした。

去年の賃上げの状況を尋ねたところ、「職場で賃上げがあり、給料が上がった」のは23.7%だった一方で、「職場で賃上げはなく給料は変わらなかった」が64.4%、「職場で賃上げがあったが自分の雇用形態には適用されず給料は変わらなかった」が10.9%と、7割以上が去年の給与は上がらなかったと回答しました。

こうした中で家計は物価上昇によって「非常に苦しくなった」が60.1%、「やや苦しくなった」が34.6%と、9割以上が家計への負担が増していると答えました。

さらに物価上昇の影響による行動を複数回答でたずねると、「家で冷暖房器具の使用を控えている」が64.2%、「肉や魚、野菜を買い控えている」が62.1%、「自分の食事の量を減らしている」が56.1%を占めたほか、「子どもの習い事を断念した」が38.8%など子どもの教育環境にも影響が出ていることがうかがえます。

東京 板橋区での配付会に訪れた8歳と5歳の子どもの母親は、「食費を2万円程度に抑えなければほかが回らなくなる。卵やチーズなどの乳製品は気軽に買えず、量を少なめにしたりしている。高くて買えない食品を支援してもらい、子どもがいろんな味を知ることができて助かる」と話していたほか、10歳の子どもの母親は、「子どものお菓子はほとんど買えず、おかずを少なくしている。5月で電気代の補助がなくなるので夏は一番狭い部屋で使おうと思っている」などと話していました。

認定NPO法人グッドネーバーズ・ジャパンの浅野綾希子さんは、「物価が高騰している中で賃金が上がっていないという声が多く、実質的に生活水準が低くなっていると感じている。食費が浮くことで教育にかけるお金ができるという声もあり、1人でも多くを支援したい」と話していました。

企業や団体からの寄付 減っているとの指摘も

フードバンクのニーズが高まる一方で、企業や団体からの寄付が減っているとの指摘もあります。

東京 日野市で2016年から活動を続けている「フードバンクTAMA」は、企業や団体から受けた食品などの寄付を利用者への配付のほか、近隣で活動するフードバンクや子育て世帯への支援団体などにも寄付された食品を分配してきました。

しかし、おととしは1440件だった寄付は昨年は1306件で、ことしはさらに減少傾向で毎月20件程度減少していて、十分に分けることが難しくなっているといいます。

今月22日には、近隣のフードバンクや子育て世帯を支援する3つ団体が寄付された食品の受け取りに訪れましたが、これまでは必要な人数分だけを分配していましたが、十分な量を配れなくなってきているということです。

食品を受け取った福生市のフードバンクの担当者は、「去年は車に詰め込めるだけ食品をもらっていましたが、きょうは半分くらいです。私の担当するフードバンクの利用者はこの2年で3倍近く増えている一方で食品が十分に手に入らず、配る量が減っているのが現状です」と話していました。

また、子ども食堂や高校生の支援を行っている団体は、「ここにきて一気に受けられる寄付が減っているという実感があります。寄付が足りない場合は、購入していますが、助成金を受ける手続きに時間もかかり、大変です」と話していました。

フードバンクTAMAの芝田晴一朗 事務局長は「私たちが利用者に配付できる食品も減っている。フードバンクは、食品ロスによる寄付を配り、『もったいない』をなくしながら支援することが原則だが、それだけでは回っていかない現状になっている」と話していました。

寄付の現状「需給バランスが大きく崩れている」

フードバンクへの寄付の現状について、全国61のフードバンクに食料支援や事業運営のサポートを行う「フードバンク推進協議会」の米山廣明 代表理事は、「支援要請は増えている一方で、支援のための食品は減っていて、需給バランスが大きく崩れている。日本のフードバンクの歴史を振り返っても、これだけ需給バランスが崩れてしまった時期はないのではないか」と話しています。

フードバンク推進協議会によりますと、フードバンクへの食品の寄付は、家庭で食べきれなかったお中元やお歳暮の食品などを個人が寄付する場合と、企業などから余剰在庫の寄付があるということですが、いずれの寄付も減少しているということです。

寄付が減少している要因について、個人は、物価上昇の影響で家庭での消費を優先する心理が働いているとみられ、企業は、商品の値上げに伴い、消費の落ち込みを見越して生産数を絞っていることから余剰在庫が生まれにくく、フードバンクに回せる余力がなくなっているとみているということです。

また、コロナ禍以降、フードバンクのニーズが高まり、この5年間でフードバンクが100程度増えて1団体当たりが受けられる寄付の量が減っていることも要因の1つだとしています。

米山代表理事は、「食品寄付が不足している状況だが、多くの団体の声を聞いても支援を求める声は増え続ける一方なので、フードバンクの取り扱い量を増やしていくための公的な財政支援が必要だ」と話していました。

専門家「生活が苦しい人の負担を緩和する政策が重要」

第一生命経済研究所の永濱利廣 首席エコノミストは「生活必需品である食品とエネルギーの値上がりが深刻で、全体的に賃金は上昇しているが、物価の上昇に賃金の上昇が追いついていない。所得が低い世帯ほど、生活必需品の出費の割合が高いため、負担が増して生活が苦しくなり生活格差が拡大している」と指摘しています。

今後の見通しについて、「ことしの秋くらいにアメリカが政策金利を下げる方向に進めば、若干、円安が緩和して、物価の上昇ペースが鈍化する可能性はあるが、食品とエネルギーの値上がりは当面続く可能性が高い。プラス要因として定額減税はあるものの、電気料金の負担軽減策が終了するなどマイナスの要因の方も多い。歴史的な円安で恩恵を受けているのは政府とグローバル企業であり、家計への再分配をして生活が苦しい人の負担を緩和する政策が重要だ」と指摘しています。

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