◆白組、渡辺が木村との攻め合いを制す
白組は2年連続のリーグ優勝を狙う羽生善治九段(53)、前王位の木村一基九段(50)、そして渡辺九段の3人が3勝1敗で優勝を争っています。最終局では、木村九段と渡辺九段が直接対決。相矢倉の戦型から中盤、両者とも引かず、後手の渡辺九段が馬をつくって迫ると、木村九段は敵陣に銀を打ち込んで反撃します。しかし、この攻め合いは後手に分がありました。木村九段は豊富な持ち駒で迫りますが、後手玉はするすると右辺に逃げ込み、返す刀で先手玉を即詰みに討ち取りました。白組で12年ぶりのリーグ優勝を決めた渡辺明九段(中)、リーグ陥落となり感想戦で嘆く木村一基九段(左)、敗れたがリーグ残留となった羽生善治九段(右)
1敗を堅持した渡辺九段は、競争相手の羽生九段が勝てばプレーオフ、敗れれば優勝となります。タイトル獲得31期を誇る渡辺九段ですが、新設タイトルの叡王戦を除くと、七つのタイトルのうち王位のみ獲得がないばかりか、挑戦したこともありません。「自分のキャリアの中でも悔いが残るところ。今回は頑張りたい」と意気込みました。 敗れた木村九段はリーグ陥落が確定。「負けちゃったんだからしょうがない」と苦笑いしつつ、羽生九段に逆転負けした一局を振り返り「あの負けがでかすぎた」とぼやきました。◆若手対決の紅組、斎藤のカウンター一閃
紅組は前期挑戦者の佐々木大地七段(28)、「西の王子」の愛称がある斎藤八段、現役最年少棋士の藤本渚五段(18)の3人による優勝争い。東京では、佐々木七段と佐藤天彦九段(36)の一戦が指されました。佐藤九段の先手三間飛車に、佐々木七段が右四間飛車の急戦で対抗。終盤、佐々木七段が先手陣に激しく踏み込みましたが、先手玉には絶妙の合駒で詰みを逃れる手順がありました。若手強豪のひしめく紅組で優勝を勝ち取った斎藤慎太郎八段(中)、連続挑戦を逃した佐々木大地七段(左)、快進撃が一歩及ばなかった藤本渚五段(右)
佐々木七段の黒星で、紅組の優勝は大阪で指されている斎藤八段―藤本五段戦の結果次第に。昨年度の新人賞に輝くなど絶好調の藤本五段ですが、この日は実績で上回る斎藤八段の大局観が光りました。先手の藤本五段は9筋を破り、竜をつくりますが、斎藤八段は先手の玉頭を狙ってカウンターを一閃(いっせん)。長手数の詰みを読み切り、初のリーグ優勝を決めました。 斎藤八段は3月に順位戦のA級からB級1組に陥落するなど、最近苦戦が続いていました。終局後のインタビューでは「順位戦で降級して開き直れた。王位リーグは弱気な将棋を避けようとのびのび指せたのが良かった。ここ数年なかったチャンスなので、しっかり頑張りたい」と決意を述べました。 今期リーグで快進撃を見せていた藤本五段ですが、勝ち越しながらも陥落が決定。「ここまで勝てると思っていなかったが、せっかくのチャンスなのでつかみたかった。終わってしまうのは残念」と語りました。一方、この結果でからくも残留が決まったのが佐々木七段。「今期はいいスタートを切れたが、斎藤八段戦、佐藤九段戦での敗戦は課題が見えた。3勝2敗での残留は運が良かった」と振り返りました。◆羽生は逆転負け「詰みがあるかと思ったが…」
この日最後まで残ったのが、プレーオフ進出を狙う羽生九段と飯島栄治八段(44)の一戦です。控室の検討では、一時は先手の羽生九段が勝勢とみられていましたが、一見危なそうな後手玉には意外と生命力がありました。「詰みがあるかと思ったが、見えなかった」と羽生九段。飯島八段の懸命の粘りが功を奏し、最後は難解な詰みを読み切って逆転勝ち。これで渡辺九段の白組優勝が決まりました。 敗れたもののリーグ残留となった羽生九段。1993年に初めて王位リーグ入りして以降、一度も陥落がないという驚異的な記録を更新しました。 渡辺九段と斎藤八段による挑戦者決定戦は30日に指されます。どちらが勝っても、初の王位挑戦。激戦の結末にご注目ください。◆「相手にとって重要な一局こそ全力」
<取材を終えて>両組ともプレーオフにならず、最終局で優勝が決まるのは意外な結果でした。飯島八段はここまで全敗で最終局は消化試合でしたが、死力を振り絞って羽生九段のプレーオフ進出を阻みました。将棋界には「相手にとって重要な一局こそ全力を尽くせ」という勝負哲学がありますが、まさにその実践を見た思いです。王位リーグの順位のつけ方 最終局の結果、紅白両組とも2〜4位の3人が3勝2敗で並ぶ珍しい結果に。同星の場合は直接対決の結果が重視されるが、今回はいずれも1勝1敗のタイ。規定では前期の王位戦の成績で順位を決めることになっており、紅組は前期リーグ優勝の羽生九段が、白組は前期挑戦者の佐々木七段がそれぞれ2位となり、残留が決まった。
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