金沢市の石川県立音楽堂で展示中のビオラ(右)とバイオリン2本(16日)=共同

能登半島地震で被災した石川県輪島市で、がれきの下から無傷で見つかった輪島塗のバイオリンやチェロなど4本が、金沢市の県立音楽堂で展示されている。制作者の息子、八井貴啓さん(54)は「楽器が残ったのは奇跡」と話し、復興に活用してほしいと願う。展示は31日まで。

八井さんが父の汎親さん(86)から社長を受け継いだ輪島市の「大徹八井漆器工房」は、作業場が1月の地震で倒壊した。保管していた漆器などの多くが、がれきの下敷きになった。

八井さんがケースに入ったバイオリンとチェロを見つけたのは2月5日。折り重なった木材などの隙間にあり無事だった。3月には別の部屋があった場所でビオラともう1本のバイオリンを発見した。汎親さんが「漆職人の集大成」として10年ほど前に作った4本。無事を報告すると、興奮した様子で喜んだ。

倒壊した工房の前でバイオリンとチェロが見つかった場所を説明する八井さん(4月、輪島市)=共同

地震時、八井さんは運転していた車が倒れてきたブロック塀に挟まれそうになり、間一髪で逃げ出した。自宅隣の家は倒壊し、住人が亡くなった。多くの人が犠牲になった一方で楽器が無事だったことに、複雑な思いもあると明かす。

そんな中、交流があった音楽堂の職員に貸し出しを依頼され「多くの人に楽器を見て、音を聴いてもらい、輪島や地震のことを覚えていてほしい」と考えるようになった。音楽堂を運営する県音楽文化振興事業団の山本重則事務局長は「地震に負けずに立ち上がる被災者の希望の象徴になれば」と思いを込める。

4月には、県立輪島高の入学式で、このバイオリンとチェロが奏でられた。バイオリンを演奏したリトアニア出身のジドレさん(31)=金沢市在住=は「能登の自然や人が好き。音楽の力で少しでも皆さんにパワーを与えられたら」。会場で聞き入った汎親さんは「力強くて良い音だった」と顔をほころばせた。〔共同〕

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