韓国語(奥)と中国語(中央)に翻訳された絵本「教室はまちがうところだ」。日本語版は今夏に大型本としても出版される=共同

学級通信につづられた中学教諭の詩が、時代や国を超えて広がっている。「教室はまちがうところだ」と題する作品で、絵本として出版されてから5月で20年。「まちがうことをおそれちゃいけない」と、今日の学校現場を明るく励ましている。

新学期が始まって間もない静岡市立安倍口小学校。5年1組の授業で、担任の末澤一恵教諭が絵本を紹介し語りかけた。「勉強も水泳も最初からできる人はいません。間違っても恥ずかしいことじゃないよ」

絵本「教室はまちがうところだ」を紹介する末澤教諭(静岡市立安倍口小学校)=共同

その後、児童らが詩を群読し、それぞれが気に入ったフレーズを発表した。末澤教諭は「何でもやってみようと背中を押してくれ、学ぶプロセスも大切にしてくれる詩です」。

その詩を書いたのは静岡市立中学の国語教諭、蒔田晋治さん(2008年、82歳で死去)で、1967年のことだ。「クラスの子たちがおとなしい。元気づけたい」と、学級通信に寄せた。

「安心して手をあげろ」「(意見を)言いあうなかでだ (中略)みんなで伸びていくのだ」。生徒らに寄り添う一節一節に同僚の教諭たちも共感。じわじわと広がった。

やがて編集者の目に留まり、2004年に子どもの未来社(東京)から出版された。絵本作家、長谷川知子さんのおおらかなタッチの絵とともに注目を集め、学校の授業などで活用される一冊になった。進級祝いに贈る保護者もいて、これまでに37刷、計24万部に上る。

今年4月の入学式で絵本を朗読したのは、北海道苫小牧市立若草小学校の石川一美校長だ。「失敗からどんどん学んで創造力を養う。そんな学校文化を大切にしたくて。式辞のつもりでした」と話す。

新任時代から詩を教室に張り出し読み聞かせてきたといい「みんなで成長しようと呼びかける内容に私も励まされてきました」と振り返る。

共感の輪は国内にとどまらない。韓国では11年の初版から計13万部のロングセラーに。大型本にもなって図書館や学校での読み聞かせに活用されている。

昨年は釜山の劇団が絵本を基にミュージカル作品を制作。20回以上の公演を成功させた。中国では17年から計100万部を出版。台湾でも新たな出版の準備が進んでいる。

この絵本を「名作」として自著で紹介し、各地の学校でアドバイザーも務める「陰山ラボ」の陰山英男代表は「子どもがのびのびと過ごせる場をつくろうという詩の精神は、学校の理想そのもの。失敗を許さない風潮が社会で強まってきたからこそ、教師や親にとって絵本は定番の一冊であり続けるのではないだろうか」と話す。〔共同〕

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