ロシアのプーチン大統領は16日、志願兵の採用が順調に進んでいると強調した(モスクワ)=AP

ロシアの経済成長が鈍化する兆しが出ている。2025年2月に丸3年を迎えるウクライナ侵略による人手不足が深刻で、インフレや通貨安が国民や企業に重荷となっている。プーチン大統領は19日に国民との直接対話を開く。国民が抱える不満の解消につなげ侵略の正当性を主張するとみられる。

軍需主導の経済成長が鈍化

プーチン氏は19日正午(日本時間同日午後6時)から国民との直接対話と記者会見に臨む。プーチン氏が記者の質問や国民の要望に応える大規模イベントで、同様の形式で開催した23年は4時間程度続いた。

ウクライナ侵略のほか、24年に包括的戦略パートナーシップ条約を結んだ北朝鮮との関係、トランプ次期米政権などについて言及するとみられる。

ロシア経済はこれまで軍需がけん引し、プラス成長が続いてきた。ロシア連邦統計局が11月に発表した24年7〜9月期の実質国内総生産(GDP、速報値)は前年同期比3.1%増加し、6四半期連続のプラス成長だった。

侵略が長引き軍需産業は工場の稼働率を高めており、軍需関連とみられる化学や金属、自動車などが伸びた。

もっとも、四半期ベースでみると足元の成長率は鈍化している。国際通貨基金(IMF)は24年通年の成長率を3.6%と見込み、25年は1.3%に減速するとみている。人手不足や通貨ルーブルの下落といった複合的な要因で経済にひずみが生じつつある。

ロシア軍はウクライナ東部ドネツク州で犠牲をいとわず攻勢を続けており、不足する兵員の補充は志願兵である契約軍人で補う方針だ。

生活コスト高騰、ジャガイモは85%高

プーチン氏は16日に出席した国防省の会合で、24年の志願兵の動向について「平均して1日あたり1000人以上が契約している」と述べ、採用が順調だと強調した。今年は43万人以上が国防省と契約したという。失業率は24年7〜9月は2.4%と過去最低水準で推移する。

慢性的な人手不足が人件費を押し上げ、インフレ率の上昇につながっている。11月の消費者物価指数は前年同月比8.9%上昇となり、10月(8.5%上昇)から伸び率が拡大した。24年に入って上昇基調が目立ち、足元は9%前後で推移する。

野菜や乳製品といった食料品などの価格高騰が目立つ。ロシア連邦統計局によると、12月上旬時点のバターの価格は23年末に比べて34%、ジャガイモの価格は85%上がった。

米国など西側諸国の制裁による影響も出始めている。米財務省は11月、ロシアの大手銀行ガスプロムバンクなど複数の金融機関を新たに制裁対象に加えると発表した。通貨ルーブルは一時、対ドルで1ドル=約110ルーブル台に下落。ロシアがウクライナ侵略を開始した直後(22年3月)以来の安値圏となった。

ルーブル安は輸入企業にとって調達費用などの増加につながり、国内のインフレを一段と加速させる要因となる。

2023年12月の国民対話と記者会見は4時間続いた(モスクワ)=ロイター

貧困層支援へ食料配給券

生活コストの上昇は国民の不満に直結しかねない。物価上昇を受けて貧困層を支援する動きも出ている。ロシア紙RBKは16日、西部カリーニングラード州で25年にフードスタンプ(食料配給券)の発行が開始される見通しだと伝えた。年金受給者がまず対象になるとみられる。

ロシア中央銀行は想定を上回る物価上昇が続いているとして、政策金利を引き上げてインフレを抑制する方針だ。10月の金融政策決定会合では政策金利を年21%に引き上げた。20日に開く会合で金利をさらに上げるとの観測が強まっている。

ただ、金利上昇は企業に重荷となる。ロシアのマトビエンコ上院議長は11月、建設業界での倒産が拡大する懸念があるとして「倒産への備えとしてモラトリアム(債務返済の猶予)が必要になる」と述べた。

戦時下で拡大する歳出を補うため25年からは法人税率を20%から25%に引き上げるなど課税強化の動きも出ている。ウクライナ侵略が長引けば、企業活動への影響が広がる恐れもある。

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