【ニューヨーク=清水石珠実】米通信・メディア大手コムキャストは20日、ケーブルテレビ局事業をスピンオフ(分離・独立)する計画を明らかにした。米国では、動画配信サービスの普及を受け、消費者によるケーブルテレビ契約の打ち切りが加速している。年間1兆円以上を稼ぐドル箱事業だが、今後の成長は限定的な「非中核事業」と判断した。
コムキャストは、傘下の経済テレビ局「CNBC」や報道局「MSNBC」、スポーツ局「USA」などの主要なケーブル局を切り離し、新会社を設立する。新会社の正式名称は未定。コムキャストによると、分離予定の事業の合計売上高は24年9月までの1年間で約70億ドル(約1兆850億円)に上る。
コムキャストはこうしたケーブル局事業以外にインターネット接続や地上波テレビ、テーマパークなどの事業を手掛ける。ケーブル局事業の大半を分離する一方で、高成長が見込める動画配信サービス「ピーコック」は手元に残す。人気リアリティー番組を持つケーブル局「ブラボー」は、ピーコックのコンテンツ拡充に役立つとみて分離対象から外した。
「変化するメディア環境において、攻勢をかけやすくなる」。コムキャストのマイク・カバノー社長は発表資料のなかで、スピンオフに動く理由をこう説明した。ケーブル局事業の価値が大きく毀損する前に分離し、他社との合併や提携などをしやすくする狙いがあるとみられる。
米消費者の間では高額なケーブルテレビを解約して動画配信サービスに乗り換える「コードカッティング」が加速している。米調査会社モフェット・ネイサンソンによると、ケーブルテレビなど有料TV契約者の年間減少幅は24年に入って12%を超えた。20〜21年の間はおおむね8〜9%にとどまっていた。
視聴者の縮小は、大切な収入源である広告収入の減少にもつながる。ケーブル局事業を巡っては、24年8月に別のメディア企業であるワーナー・ブラザース・ディスカバリー(WBD)とパラマウント・グローバルが大型の評価損を計上した。2社合計で約150億ドルの事業価値が消失した。
コムキャストは、ケーブル局事業のスピンオフ作業には1年ほど時間がかかるとみる。傘下の事業はケーブル局、地上波といった枠組みをこえて、報道やスポーツの現場で協力体制を組んできた経緯があり、切り離し作業は簡単ではないとの見方もある。手続きの完了には、取締役会の最終承認や当局の許可などが必要になる。
今月5日に投開票が行われた大統領選で、トランプ前大統領の返り咲きが決まった。M&A(合併・買収)に厳しい姿勢を示していたバイデン現政権が交代することで、メディア業界でも大型再編が認められるのではないかとの期待が高まっている。新しく誕生する新会社を巡っては、すでにメディア他社との合併やプライベートエクイティ(未公開株)ファンドへの身売り観測などが出ている。
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