ベルリンの壁は、第2次世界大戦後の東西両陣営の対立を背景に、旧西ベルリンの周囲およそ160キロに渡って築かれ、旧東ドイツで民主化を求める市民の動きが高まったことを受けて1989年11月9日に崩壊しました。

35年がたったベルリンでは、日本時間の9日午後6時すぎから、当時の民主化運動の功績をたたえるとともに、旧東ドイツから西側に逃れようとして死亡した人などを追悼する式典が開かれました。

また当時、壁があった観光名所ブランデンブルク門の前には、35年を記念して市民が描いたポスターが並び、「立ち上がってひとつになろう」とか「われわれは平和を求めている」など、壁の崩壊によって広まった自由や民主主義、それに平和のために結束を訴えるメッセージなどが見られました。

現地を訪れた40代の女性は「私たちは先行きが不透明で怒りや不安に満ちている時代に生きている。当時の東ドイツの人たちのように、自由は贈り物ではなく闘って手に入れるものだと覚えておかなければならない」と話していました。

また、壁が崩壊した年に生まれたという女性は「きょうは、自由と民主主義が必要だということを考える日だ」と話していました。

政治学者「私たちは一層無秩序な状況の中に」

東西冷戦で東側陣営の民主化運動に先べんをつけ、壁の崩壊の原動力ともなったと評価されるポーランドの自主管理労組「連帯」の活動を今に伝える地元の博物館の館長で政治学者のベイゼル・ケルスキ氏は、NHKのインタビューで「私たちは一層無秩序な状況の中にいる」と指摘し、壁の崩壊が広めた民主主義や自由な価値観を守り続ける重要性を強調しました。

この中でケルスキ氏は、壁が崩壊した歴史的な意義について「ヨーロッパだけでなく世界の新たな秩序が形成された」と述べて、自由や民主主義を広めた歴史的な意義を強調したうえで自国第一主義を掲げ、多様性などを否定する極右政党がヨーロッパで台頭している現状を取り上げ「残念ながら今私たちは全く別の世界に生きている」として懸念を示しました。

また、世界的に内向きな志向が目立つ背景について「グローバル化は私たちに協力だけでなく責任も負わなければならないことを示したが、多くの国民や政治家にとってはそれがあまりに過剰なために守りの姿勢となり、視野を狭め、その責任を自国のみにとどめようとしている」と述べ、グローバル化の反動が政治家をポピュリズム的な主張に向かわせ、国際協調の機運を損なわせていると指摘しました。

さらにケルスキ氏は、トランプ氏が大統領選挙で勝利したアメリカについて「人権の尊重や国際的な連帯も重要な問題ではなくなる」と述べたうえで、ウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン大統領については「NATOの結束が安定しているかを見極めようとするだろう」として、アメリカが世界を不安定化させるおそれがあると危機感を募らせました。

そして「私たちは一層無秩序な状況の中にいる。自由や民主主義に基づく秩序を構築したい側と、世界を勢力圏に分けることに関心を持つ大国との分裂が生じている。私たちは、なぜ人権や平和を重んじるのかを再び説いていかなければならない」と述べ、ベルリンの壁の崩壊が広めた民主主義や自由な価値観を守り続ける重要性を強調しました。

都内のキリスト教の教会でも礼拝

ドイツのベルリンの壁が崩壊してから9日で35年になるのに合わせ、都内のキリスト教の教会では、東西に分断されていた歴史を振り返り、平和の大切さを考える礼拝が行われました。

ベルリンの壁は1989年の11月9日、当時の指導部が出国の自由を発表したのをきっかけに東西の市民によって壊されました。

当時、民主化の声が高まった発端は旧東ドイツのプロテスタント教会で始まった抗議運動とされていて、9日に東京 品川区のプロテスタント教会では平和の大切さを考える礼拝が行われました。

旧西ドイツ出身の教会の牧師、アンドレアス・ラッツさんがあいさつし、検問所で服を脱がされて検査を受けたことや、西側に戻る際、武装した国境警備の兵士が駅に配置され友人と別れなくてはならなかったことなど、当時の東ベルリンを訪れたときのことを振り返りました。

そのうえで「11月9日には別れの涙はなく、喜びの涙があった。変化を求めて勇気を奮い立たせた何十万もの人々による運動が結実した」と述べました。

そして、参加者はろうそくに火をともし、ベルリンの壁を越えようとして射殺された住民などを追悼しました。

壁が崩壊した際、ベルリンにいたという80代の女性は「最初は信じられませんでしたが、壁の近くに行ってももう何もされず、自由に東側に行けるようになっていました。私は慌てて家に帰り、金づちを持ってきて壁の一部を削りました」と話していました。

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