米国の中央銀行にあたる米連邦準備制度理事会(FRB)は7日、2会合連続となる利下げを決めた。物価高(インフレ)に落ち着きがみえてきているためだ。一方で、大統領選で勝利したトランプ前大統領の公約はインフレを再燃させそうなものばかりで、2年半に及んだFRBの金融引き締めの「成果」を台無しにしかねない危うさをはらむ。

  • 米FRB、2会合連続利下げ トランプ新政権でインフレ懸念

 FRBは7日まで開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利を0.25%幅引き下げ、年4.50~4.75%にすると決めた。下げ幅は前回の0.50%幅から半減させた。

 激しかったインフレが大きく低減するなか、雇用の伸びが鈍化するなど経済状況には一部で弱さも見える。連続利下げで労働市場を下支えする。

 「勝利宣言をしているわけではない」。FRBのパウエル議長は7日、記者会見でこう述べつつ、自信をみせた。「今後数年間かけて、インフレ率が(物価目標の)2%程度に落ち着くというストーリーには一貫性がある」

 パウエル氏の言葉には、激しいインフレを苦心して抑えてきた自負がこもる。だが、その努力が水の泡になりかねない動きがある。来年1月のトランプ氏の再登板だ。

 「短期的には、選挙が我々の政策決定に影響を及ぼすことはない」

 パウエル氏は会見でこう明言して、記者から質問が相次いだトランプ新政権の金融政策への影響を、ひとまず否定。食い下がる報道陣に「推測も臆測も仮定もしていない」と言質を与えなかった。

 トランプ氏は選挙戦で、全輸入品に10~20%、中国製品には60%の高関税をかけると公約。輸入業者などは追加関税分を価格に転嫁するとみられ、多くの経済学者はインフレを再燃させると警告する。

 他にも、来年末に期限が切れる「トランプ減税(個人所得減税)」の恒久化や、移民対策の強化も打ち出した。いずれも様々な経路を通じて、インフレを再燃させかねない。

 トランプ氏の政策は財政悪化にもつながりかねず、米長期金利は高止まりが続く可能性がある。一部の証券会社は、来年半ばまでにFRBは利下げの休止に追い込まれると予想する。

 パウエル氏は会見で、政権や議会が決めた政策が、時間の経過とともにFRBの政策に影響するという「原則」に言及した。「政策変更のタイミングや内容がどうなるかは分からない」と断りつつも、トランプ氏の政策から無縁ではいられないことを示唆した。

 FRBへの政治的な圧力も強まりそうだ。

 政府や議会は、有権者うけのいい景気の拡張路線に走りがちで、物価の安定を担う中央銀行には政治的な圧力がかかりやすい。中銀が政治的圧力で利下げを強いられれば、激しいインフレが起きるなど結果的に市民生活に大きな影響が出かねない。そのため、多くの主要国では、中銀の政治からの独立を様々な手法で保っている。

 だが、トランプ新政権下でインフレが再燃してFRBが利下げを止めれば、トランプ氏が不満を募らせる可能性が考えられる。利下げの停止は、トランプ氏が好むドル安や景気の拡大に水を差すからだ。

 トランプ氏は前政権時代、景気にマイナスに働く利上げを決めたパウエル氏を繰り返し公然と批判した。一時はパウエル議長の解任を検討したともされる。

 トランプ氏は今年8月にも、FRBは「物事に対して遅れがちだ」と批判。自身は「(ビジネスで)大金を稼ぎ、とても成功した」ため、「多くの場合、FRBの人や議長より直感が優れていると思う」と自らの判断への自信を挙げ、金融政策の決定に「少なくとも大統領が発言権を持つべきだと思う」と述べた。

 大統領がFRB議長を解任できたり、金融政策を決める会合に出席できたりするよう制度を変える検討をする可能性もある。

 パウエル氏は会見で、トランプ氏から辞任を迫られた場合に応じるかを問われ、「ノー」と否定した。解任や降格も「法律上、認められていない」と突っぱねた。

 ある米証券アナリストは「実際にトランプ氏の圧力にFRBが屈することはないだろう。だが、パウエル議長の任期が切れる2026年5月に、自分の意をくんだFRB議長に代え、間接的に影響を及ぼそうとする可能性はある」と指摘する。

 深刻な景気後退を回避しつつ、インフレも抑え込む「軟着陸」を、FRBは今もめざしている。だが、トランプ氏の再登板で目算は大きく狂いそうだ。パウエル氏はこの日、こう漏らした。

 「我々の仕事には、あまりにも多くの不確実性がある」(ニューヨーク=真海喬生、ワシントン=榊原謙)

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