「鼎泰豊」をはじめ、中国では高級レストランの閉店が相次いでいる

台湾系小籠包レストランの「鼎泰豊(ディンタイフォン)」。台湾のみならず米国やシンガポールなど世界で展開しており、日本でも東京を中心に20以上の店舗を構える。中国でも店舗によっては看板に「ディンタイフォン」とカタカナの表記を掲げており、現地の中国人だけでなく日本人駐在員の人気を集めている。

9月上旬、ランチタイムに北京市内にある鼎泰豊を訪れると、座席は8割ほど埋まった状態だった。来店客は名物の小籠包をはじめ、チャーハンなどの人気料理を注文しており、一見すると人気店としてのにぎわいを見せていた。

だが、実はこの店舗、2024年10月末での閉店が決まっている。鼎泰豊の中国子会社によると北京や天津、青島、西安などの14店舗を閉店する計画という。中国本土では30店舗あまりを営業していたため、約半数を閉じる計算だ。北京の店舗を訪れていた客は名残を惜しんで訪れているようだ。「週末は行列ができるほどたくさんの客が押し寄せている」(店員)という。

中国子会社は今回の大量閉店について、営業許可証の更新に向けて取締役の見解が一致しなかったと説明している。レストラン予約・評価サイト「大衆点評」によると鼎泰豊の1人当たりの客単価は約150元(約3000円)と、大衆レストランに比べて高い。景気が低迷する中、価格の高さがネックとなり客離れが閉店の理由になった可能性が高い。

ジョエル・ロブション後継店も閉店

鼎泰豊だけではない。中国では現在、高級レストランの閉店が相次いでいる。

高級フレンチレストランの「L'Atelier18(ラトリエ18)」もその1つだ。歴史的建造物が並ぶ、上海随一の観光名所「外灘(バンド)」エリアで運営していた。「フレンチの帝王」として知られた故ジョエル・ロブション氏がかつて経営していたレストランの後継店として営業していたが、24年8月に閉店に追い込まれた。

立地の良さもあり、1人当たりの客単価は1580元程度と高額だった。中国現地メディアの報道によると、「8月に急きょ閉店が決まり、従業員への退職金は支払われていない」という。

上海随一の観光名所である外灘エリアで、8月に閉店した高級フレンチレストラン「ラトリエ18」が入居していたビル

上海市内のショッピングモールに足を運んでも、混み合うのは客単価が比較的安い地下のフードコートばかり。上階にある客単価が200元を超えるような比較的高級なレストランは客がまばらなことが多い。日系の小売業幹部は「格安チェーンは人気だが、それだけだとモール全体のブランド価値を下げてしまう」と苦しい胸の内を明かす。

不動産バブル崩壊を受けて中国の景気が低迷する中、消費者の財布のひもは固くなっている。ピザハットやマクドナルドなどの外資系外食チェーンや中国のカフェチェーン大手の瑞幸珈琲(ラッキンコーヒー)などが熾烈(しれつ)な価格競争を繰り広げる中、高級レストランは中国の消費者の選択肢から外れつつある。

海外移住する富裕層は年1万5200人へ

上海中心部にある、ラグジュアリーブランドが数多く出店する高級モール。9月上旬の休日午後に訪れたが、客はまばらで数えるばかり。ブランドのロゴが入ったショッピングバッグを両脇に抱えるといったかつての姿は見られない。

とりわけ顕著だったのが中国でもトップクラスの人気を誇るラグジュアリーブランド「ルイ・ヴィトン」の店舗。中国ではマンツーマンでの接客が基本のため、来客が多い場合は店舗への入場制限が行われる。新型コロナウイルス禍の22〜23年でも行列があったが、現在は店舗に列をなす姿は少ない。

上海中心部の高級モールに入店する「ルイ・ヴィトン」だが、コロナ禍と比べても客足は遠のいている

実際、仏LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンの24年1〜6月期決算では、中国を含むアジア太平洋地域の売上高は123億6700万ユーロと、前年同期比で12.6%減った。「円安だから中国人の多くは日本でラグジュアリーブランドを購入する」(上海在住の40代女性)という意見は多く、東京・銀座には数多くの中国人観光客が押し寄せているもようだ。

もっともLVMHの1〜6月期の日本での売上高は27.5%増の37億7000万ユーロにとどまる。中国の落ち込みを補えていないのが実情だ。ラグジュアリーブランド「グッチ」などを運営する仏ケリングも1〜6月期に中国などアジア太平洋地域の売上高が22%減と落ち込んだ。

中国でレストランやブランドなどの高級品の消費が低迷する背景にあるのは、これまで述べた通り、中国の景気低迷で消費者の財布のひもが固くなっていることが大きい。それに加えて、中国経済の不透明感から中国の富裕層が、中国国外へ移住する動きが加速している。英コンサルティング会社のヘンリー・アンド・パートナーズは、24年に国外移住する中国の富裕層は1万5200人と、過去最多となる見通しを示している。

中国政府は不動産不況を脱すべく購入時の住宅ローンの頭金比率の下限の引き下げなどのてこ入れ策を実施するほか、電気自動車(EV)や家電の買い替え促進に向けた補助金を出すなど景気対策へ動いている。ただ一連の政策に恩恵を受けて余裕ができたとしても、消費者は高級品に向けて財布のひもを緩めるまでには至っていない。高級レストランやラグジュアリーブランドの不振は、中国経済の深刻度を浮き彫りにしていると言えそうだ。

(日経BP上海支局 佐伯真也)

[日経ビジネス電子版 2024年9月18日の記事を再構成]

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