12日、投票でストライキへの賛成を呼びかける組合員=AP

【ヒューストン=花房良祐】航空機大手の米ボーイングの労働組合は13日、16年ぶりのストライキに入った。前回ストと同期間実施されれば、5000億円規模の資金流出につながるとの見方もあり、経営再建中の同社にとって打撃となる。米国では長引く物価高でストが頻発し、11月に大統領選を控えて労組の発言力が強まっている。

組合執行部と会社が合意した労働協約について12日、組合投票を実施したところ、賃上げの幅が十分でないなどとして否決された。合意案についての反対票は約95%、ストへの賛成票は約96%に達した。会社に異例の強い拒否反応が示された。

背景にはインフレに賃上げが追いつかない不満がある。今回の合意案には4年間で25%の賃上げが盛り込まれていたが、組合は従来、40%の引き上げを目指していた。組合執行部が会社に譲歩したことに組合員から怒りの声が上がった。

ボーイングのストは組合員3万人以上がいる西部ワシントン州シアトル郊外の工場群などが対象だ。同地域は小型機「737MAX」や大型機「777」を製造している地域だ。8月に就任したばかりのケリー・オルトバーグ最高経営責任者(CEO)は自ら工場に足を運んで組合員を説得したが、実らなかった。

ボーイングの経営は苦しい。1月には飛行中の737MAXの胴体に穴が開く事故が発生し、品質問題に揺れている。2024年4〜6月期決算は8四半期連続の最終赤字だった。財務の悪化を受けて同社の社債格付けは「投資不適格」の一歩手前の水準に下がった。

ボーイングは製造品質問題や新型コロナウイルス禍などで収益力が低下し、従業員の待遇を改善する余裕がなかった。組合員は年金や医療保険で会社の負担を増やすべきだとし、ストで権利拡充を目指す方向に傾いた。

労使は再び協議する方針で、会社側は「新たな合意に向けて交渉の準備がある」とのコメントを出した。ただ、ストが長期化すれば打撃は大きい。米ワシントン・ポストによると、前回08年に50日超のストが実施された際は20億ドル(約2800億円)以上の利益が失われた。今回も50日続けば30億〜35億ドルの資金流出になるとの見方がある。

ボーイングのストは日本の航空機産業にも影響しそうだ。777の約2割は三菱重工業など日本企業が製造する。737MAXにはナブテスコなどが部品を供給している。

米国では労働者の不満が高まっている。米労働省によると、23年に米国で計33件の大規模ストが発生し、46万人が参加した。件数ベースでは39件発生した2000年以来の多さとなった。

大統領選を控え、労働組合の発言権も高まっている。米メディアによると、日本製鉄のUSスチール買収案を巡っては、バイデン大統領は支援するハリス副大統領候補の支援に向けて買収中止命令を出すことを検討している。共和党候補のトランプ前大統領も再選されれば買収を阻止すると鮮明にしてきた。いずれも買収に反対する労働組合の支持獲得を狙っているとみられる。

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