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  • 17歳の少年がダンス教室に侵入 子ども3人死亡

  • 発端は 容疑者の偽情報がネット上に投稿されたこと

17歳の少年がダンス教室に侵入 子ども3人死亡

イギリスでは、ことし7月29日に中部サウスポートで17歳の少年が子どものダンス教室に侵入してナイフで次々に人を刺し、子ども3人が死亡しました。

事件の直後から、インターネット上には「犯人はイスラム教の移民とみられる」といった偽の情報が拡散され、事件の翌日から各地で「反移民」や「反イスラム」を主張する暴動が起きる事態となりました。

暴動は、先月上旬にはほぼ収束しましたが、これまでに暴動に関与したり偽情報をSNSで発信したりしたとして逮捕された人は1380人にのぼっています。

イギリス政府は、偽情報が暴動の発端となったことを重くみて、SNSの運営会社への規制を強化する方針です。

いまの法律では性暴力など違法なコンテンツの削除を怠った企業に巨額の罰金を科すことになっていますが、欧米のメディアによりますと、誤った情報の拡散を放置しても罰則の対象となるよう見直しを検討しているということです。

ただ、規制の強化には言論の自由を脅かしかねないという批判もあり、イギリス政府は難しい対応を迫られることになります。

発端は 容疑者の偽情報がネット上に投稿されたこと

イギリス各地に急速に広がった暴動は、容疑者に関する偽の情報が、インターネット上に投稿されたことが発端でした。

事件があったその日にSNSでは「犯人はイスラム教徒の移民とみられる」とか「ボートで去年イギリスに渡ってきた」といった偽の情報が拡散されました。

こうした情報を広げたアカウントの1つは、およそ50万のフォロワーを持ち、1回の投稿でこれまでに680万回以上閲覧されたものもあります。

地元の警察は、容疑者はイギリスで生まれた17歳の少年だと発表し、移民ではないことを明らかにしていました。

しかし、その後も過激な内容の投稿で知られるインフルエンサーが、犯人の顔写真や名前だと主張する誤った内容を投稿したことで偽の情報がさらに拡散しました。

また、こうした偽の情報が拡散すると同時に、「もうたくさんだ」「イギリスの子どもを守ろう」などという文言とともに、デモを行うよう呼びかける投稿が目立つようになり、イギリスの各都市で暴動が発生しました。

イギリスの公共放送BBCによりますと、暴動は事件の翌日、サウスポートで起きたほか、7月31日にはロンドンや中部マンチェスターなど新たに4都市に広がり、8月5日までに北アイルランドの街を含む26都市まで拡大しました。

背景には 反移民感情の高まりがあったか

偽情報が暴動につながった背景には、ここ数年、イギリスで高まる反移民感情があったとみられます。

イギリスは4年前のEU=ヨーロッパ連合からの離脱後、EU域外のアジアやアフリカなどから移住する人が急増しました。

経済の低迷やインフレが続く中、標的となったのがこうした移民です。

反移民感情の高まりをあらわすかのように、ことし7月の総選挙では移民に厳しい姿勢をとる右派政党「リフォームUK」が得票率を大幅に増やしました。

また、移民が仕事を奪っているとか治安を悪化させているといった反移民感情をあおるような主張がSNSなどによって拡散しやすくなっていることも、暴動が広がった背景にあると指摘する専門家もいます。

ノースウェスタン大学カタール校で、偽情報の拡散のメカニズムなどについて研究しているマーク・ジョーンズ氏は、「いまのXのようなSNSは偽情報の配信システムのようになりつつあり、大量の誤った情報の拡散を許してしまっている。“反移民”を拡散するための専門の匿名アカウントが存在し閲覧数も多い」として、SNSの運営企業への規制の強化は必要だと強調しています。

そのうえで「イギリスでは右傾化が進み、偽情報が暴動を引き起こすのは時間の問題だった。極右による移民への批判の結果としてイギリスやヨーロッパでさらに暴力が発生する可能性は現実的なリスクとなっている」と述べ、ヨーロッパのほかの国でも極右への支持の広がりが偽情報をきっかけに暴動に結びつくリスクがあると指摘しています。

暴動が起きたリバプール 図書館再開できず

暴動が起きた都市の1つ、イギリス中部のリバプールは人口の8割が白人で、かつてはイギリス有数の港湾都市として栄えましたが、近年は高い失業率などに苦しんでいます。

この都市で暴動が起きたのは、事件から5日後のことでした。

映像では、暴徒と警察官が激しく衝突する様子が映し出されていて、街では商店が略奪され、図書館が放火されました。

被害を受けたスペロー図書館はおよそ1か月がたった現在も再開していません。

図書館を修復しようと募金を呼びかける活動も行われ、これまでにおよそ25万ポンド、日本円でおよそ4700万円が集まったということです。

募金を呼びかけた女性は「図書館には地域に必要なものが集まっていて、フードバンクとしても利用できる施設だった。今は閉鎖されて残念だ。暴動は許せない」と話していました。

また、市内にはイスラム教徒が礼拝を行うモスクがあります。

モスクの運営を担うバダール・アブドラさんによりますと、暴動による直接的な被害はなかったものの、当時、建物を監視するように人が集まり、自身のスマートフォンに脅迫めいたメッセージが届いたこともあったということです。

モスクに礼拝に訪れるイスラム教徒は900人以上で、暴動があった直後は、安全のためモスクに来ないよう伝えざるをえませんでした。

アブドラさんは、モスクが再開した今も不安は尽きないといい、「イスラム教徒というだけで標的にされ衝撃だった。私たちに電話してきた人の中には『自宅から出られない』『外に出たら攻撃され、殺されるかもしれない』『家に投石されるかもしれない』と訴える人もいる」と話しています

対話で分断乗り越えようという動きも

反移民感情が高まる中で、リバプールでは対話を通じてこうした分断を乗り越えようという動きも出ています。

エミール・コールマンさんはさまざまなルーツを持つ子どもたちが参加するバスケットボールチームで、コーチを務めています。

子どもたちは学校や地域で人種差別を受けることもあると話していて、現状を変えるには考え方の異なる人たちが対話を行う場を設けるべきだとして、先月、市役所に提言を行いました。

コールマンさんは、暴動を起こした人たちとも直接、議論を行うことが重要だと強調していて、「私は暴動を率いた人たちも知っているが、対話を重ねることで、次第に意見を変えていった。彼らはSNSなどの情報に惑わされていたのであり、今の時代にこのような暴動が起きてはならない」と話しています。

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