極東での民間主催の訓練 その内容は
このうち、極東ウラジオストクで行われていた民間の団体が主催する訓練に、NHKは数か月の交渉の末、詳しい場所や参加者の顔を明かさないことを条件に、特別に撮影することができました。
訓練では、元兵士や無人機の専門家などがインストラクターとなり、まもなくウクライナに派遣されるという兵士たちが参加していました。
資金は地方政府などから拠出されているということで、こうした民間による訓練はロシア全土で行われているということです。
訓練の期間はおよそ3週間で、無人機の仕組みや組み立てなど、100時間近い座学に加えて、実際の操縦の訓練を行っていました。
訓練に使われていたのは「FPV」と呼ばれる性能を備えた無人機です。
「FPV」は「一人称視点」を意味する「ファースト・パーソン・ビュー」の略で、無人機に装着したカメラからの映像をゴーグルで確認しながら操縦します。ロシア軍、ウクライナ軍双方が使用する主力無人機の1つです。
訓練で使われていた無人機はロシア製で、航続距離はおよそ3キロ、飛行可能時間は25分です。
価格は1機当たり日本円で5万円程度で、簡易な作りで大量に生産されているということです。
さらに、爆発物に模したおよそ2.5キロの重りをつけた無人機の飛行訓練も行われていました。
訓練のインストラクターは「対戦車砲は直線でしか砲弾が進まないが、無人機ならどの角度からでも攻撃できる」と話し、砲塔やキャタピラーなど、ぜい弱な部分を攻撃できれば、欧米諸国がウクライナに供与した戦車などを破壊できると話していました。
また、ウクライナの戦場では無人機対策として、妨害電波によって位置情報などを狂わせ無人機の飛行を妨げる電子戦が激しくなっているとして、訓練では相手が使用する周波数を割り出すことの重要性を強調していました。
訓練のインストラクターは、戦場での無人機について「ロシア軍がうまくいくこともあれば、相手側が上回ることもある。どちらかにアドバンテージがあるわけではなく、均衡している。勝つための重要な要素になっている。決定的とまでは言わないが、無視できない要素だ」と話し、無人機をめぐる攻防は一層激しくなっていると強調していました。
プーチン政権 ミサイル不足で 安価な無人機の攻撃頻度高めたか
ウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン政権は、エネルギー施設を標的にした攻撃などで、ミサイルとともに無人機を多用してきました。
ロシア軍は、侵攻の長期化に伴いミサイル不足に陥り、より安価な無人機による攻撃の頻度を高めてきたとみられています。
ただ、当初はロシアの友好国で同じくアメリカと対立を深める、イラン製の自爆型の無人機「シャヘド」に依存していたと指摘されていました。
その後、ロシアは、イラン製を基にするなどして、ロシア国内での無人機の製造拡大を図ってきたとみられ、去年8月にはプーチン大統領がロシア製の自爆型無人機「ランセット」の増産を指示しています。
また、ことし1月、プーチン政権は、民間の無人機に関する国家プロジェクトも立ち上げ、2030年までに無人機の製造数を年間3万2500機に増やし、2035年には無人機の市場規模を100万機以上に拡大させ、ロシア製の割合を8割ほどに増やす見通しだとしています。
こうした無人機開発の国家プロジェクトの責任者を務めたのが、経済閣僚などを歴任したベロウソフ氏で、ことし5月、プーチン大統領によって新たに国防相に抜てきされました。
ベロウソフ国防相は7月30日に行った演説で「FPV」と呼ばれる性能を備えた無人機について「一日当たり4000機が軍に供与されている」として、軍への無人機の供給を加速させていると誇示しています。
プーチン政権は、さらなる侵攻の長期化を想定し、官民を挙げて無人機の増産や供給に取り組む体制を整えているとみられています。
ロシアの産業市から見える 無人機の製造拡大の実態
ロシアが官民一体となって無人機の製造拡大を進める実態の一端が、ロシア政府主催の産業市からかいま見えました。
ロシア政府は7月8日から4日間の日程で、軍需産業が盛んな中部の都市エカテリンブルクで、ロシア最大規模の国際産業見本市「イノプロム」を開催しました。
企業のブースで目立ったのは、ロシア国内で製造された最新の数々の無人機です。
このうち、中部ウリヤノフスク州にある無人機を製造する企業が、NHKの取材に応じました。
企業の開発責任者によりますと、20年以上にわたり自動車の部品を製造してきたということですが、ウクライナへの軍事侵攻で無人機の需要が高まるとみて開発に乗り出し、国防省にも開発の助成金を申請し、無人機の開発を進めているということです。
開発責任者はインタビューで「国防省は、かつてはイランから供与された無人機を使っていたが、いま使われているのはロシア製だ。無人機の組み立て能力も10倍以上優れ、エンジンの性能も別物だ。資金が得られれば、より速く無人機の開発ができる」と説明していました。
一方で、欧米側によるロシアへの経済制裁の影響もうかがえました。
ロシア第2の都市サンクトペテルブルクで無人機の製造を行っている企業は、これまで日本製のエンジンを使用していたということですが、経済制裁によって入手できなくなったということです。
このため、いまはロシア国内で製造されたエンジンを使用していると話していました。
さらに、会場ではロシアが経済制裁に対抗するうえで、友好国との経済関係を強化し、無人機を含む軍需産業も活性化しようというねらいもうかがえました。
ことしの産業市には主催者の発表で、60か国からおよそ900の企業が参加したということですが、そのほとんどは中国や中東など、ロシアの友好国の企業です。
かつては日本も2017年に「パートナー国」を務めるなど、日本や欧米の企業も参加していましたが、軍事侵攻後はほとんど参加していません。
出展した中国企業の担当者は「ロシアと中国は友好国だ。経済制裁のリスクはあるが、それは乗り越えていく」と話していました。
会場を訪れたロシアのミシュスチン首相は、演説で「ロシアは前例のない経済制裁に対処している。困難な時だが、われわれは自信を深めている」と述べて、中国など友好国との協力関係を拡大するとともに、無人機開発の国家プロジェクトを含む国内産業の発展を進めていく考えを強調しました。
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