シンガポールのスタートアップ、パットスナップの共同創業者、グアン・ディアン氏

【シンガポール=駿河翼】人工知能(AI)を活用した特許情報の検索サービスを手掛けるシンガポールのスタートアップ、パットスナップが特定の業界に合わせた事業を拡充する。製薬業界や材料科学などの分野向けに特許検索を提供し、専門的な知識を求める研究者などのニーズに応える。

同社のサービスは、AIが自動で応答するチャットボットを活用。研究者らが特定の技術などについて質問すると、関連する特許情報が出てくる仕組みだ。世界にある2億件の特許や100万冊の科学技術専門書、数十億件のニュース記事などのデータを大規模言語モデル(LLM)に学習させ、必要な情報を提供している。

企業は研究開発や新たな市場参入を模索する際、世界中の複雑な特許文書をくまなく調べなければならない。このサービスを利用することで膨大な作業を省けるほか、自社や競合他社の技術的な立ち位置を把握しやすくなるといった利点がある。

パットスナップは電気自動車(EV)大手の米テスラや機器・システム世界大手のドイツ・シーメンス、米航空宇宙局(NASA)など1万2000社以上の法人顧客を抱える。

特定の業界向けのサービスを拡充することで、さらなる顧客獲得につなげる狙いだ。一般的な知的財産(IP)の情報提供に加え、製薬業界に特化した特許情報の検索サービスを開始した。材料科学の分野向けにも同様の事業展開の準備を進めている。

パットスナップの共同創業者で、アジア太平洋地区のゼネラルマネジャーを務めるグアン・ディアン氏は「医療やマーケティングなどどんな業界でも、特定の専門知識を持つ企業はLLMの活用が求められている」と強調する。

グアン氏によると、米中対立の長期化によるサプライチェーン(供給網)の分断(デカップリング)が、特に米国と中国の企業の研究開発を加速させているという。「研究開発費の増加で特許検索サービスへの需要は高まっている」と指摘する。

パットスナップは2007年に設立。シンガポール国立大学を卒業し、生物医学のエンジニアだったジェフリー・ティオン氏が立ち上げた。米国で医療系の新興企業でインターンをしていた際、特許分析の難しさに気づいたことが創業のきっかけになった。

創業初期にはシンガポールの政府系投資会社テマセク・ホールディングス子会社で、新興企業に投資するバーテックス・ホールディングス傘下のファンドなどから資金を調達した。21年にはソフトバンクグループ(SBG)傘下のビジョン・ファンドなどからも出資を受け、パットスナップはユニコーン(企業価値が10億ドル以上の未上場企業)となった。

グアン氏は新規株式公開(IPO)に向けた準備が次の焦点としつつ「少なくとも2〜3年はかかる」と話す。上場はマーケットのタイミング次第との見方も示し「状況は変わるかもしれない」と語った。

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