【ジャクソンホール(米ワイオミング州)=斉藤雄太】世界の中央銀行幹部や経済学者が集う経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」が22日夜(日本時間23日朝)、開幕した。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は23日の講演で、波乱含みの米景気や利下げシナリオについて何を語るのか。既に大幅な利下げ実施を織り込む金融市場を揺さぶりそうだ。
米カンザスシティー連銀が主催する同会議はパウエル氏以下、FRBの理事会メンバーや地区連銀総裁が勢ぞろいする。会場となる山荘ロビーでは21日夕、電子端末を片手に作業するパウエル氏の姿がみられた。
変わるFRBの軸足
イベントの目玉は23日午前8時(日本時間午後11時)のパウエル氏の講演だ。おととしの同会議の講演では、歴史的な高インフレを金融引き締めで抑え込む決意を強調し、世界的な株安やドル高・円安を招いた。昨年の講演でも必要なら追加利上げに動く考えを示し、インフレ退治を引き続き優先する構えをみせた。
今年は状況が変わった。米個人消費支出(PCE)物価指数は6月に前年同月比で2.5%上昇とFRBが目標とする2%の物価上昇率に近づいてきた。他方でもうひとつの目標の「最大雇用」には下振れリスクが出てきた。
2日発表の7月の米雇用統計では失業率が4.3%に上昇した。直近4カ月間で0.5ポイント上がり、米連邦公開市場委員会(FOMC)参加者が長期的な目安とする4.2%も上回った。
市場では米景気が急速に冷え込み始めたとの懸念が浮上し、日米の株価が急落する引き金になった。その後、7月の米小売売上高が予想を上回るなど過度な景気不安は後退した。それでも金利先物市場はFRBが年内残り3回のFOMCで計1%以上の利下げに動く展開をメインシナリオに据える。年内に少なくとも1回は通常の0.25%の倍となる0.5%の利下げを実施するとの読みだ。
21日発表の7月FOMCの議事要旨では、大多数の参加者が9月17〜18日の次回会合での利下げ開始を適切とみていることが明らかになった。焦点は利下げ幅や実施のペースで、市場関係者は23日のパウエル氏の講演で手がかりを得ようとしている。
米調査会社SGHマクロ・アドバイザーズのティム・デュイ氏は「9月会合で0.5%の利下げに踏み切るかは(9月6日発表の)8月の雇用統計次第だ」と指摘する。現時点でパウエル氏はデータ次第の姿勢を堅持するとみられ、具体的な利下げシナリオを示すとの見方は少ない。だが踏み込んだ発言があれば金融市場の振幅も大きくなる。
FRBが0%台から5%超まで一気に引き上げた利上げ局面を完全に終えて利下げに転じれば、世界のマネーの流れにも大きな影響を及ぼす。
対ドルの円相場は米利上げ開始前の1ドル=115円程度から今年7月に付けた37年半ぶりの安値(162円近く)までおよそ2年半で47円もの円安が進んだ。ここ1〜2カ月は米利下げ期待や日銀の利上げを受けて円高が進み、22日は146円台で推移した。
ブラジルレアルなど新興国通貨にもマネーが回帰する兆しがある。ドル高の修正が一段と進むかどうかは米景気とFRBの利下げペースにかかってくる。
欧州・英中銀幹部の発言も注目
今年のジャクソンホール会議では、英中銀のイングランド銀行(BOE)のベイリー総裁も23日午後に講演する。欧州中央銀行(ECB)からはレーン専務理事が24日午前のパネル討論会に参加する。
ECBは6月、BOEは8月にFRBに先駆けて利下げを始めた。ドイツの4〜6月期の実質成長率がマイナスに転じるなど、欧州の景気にも先行き不安が漂うなか、中銀幹部の発言で追加利下げのヒントが示されるかに市場は注目する。
昨年参加した日銀の植田和男総裁はジャクソンホール会議に不参加の見通しだ。
ジャクソンホール会議は現役の当局者以外が金融政策や経済分析について最新の知見を披露し、意見を交わす場としても知られる。今年の全体テーマは「金融政策の有効性と波及経路の再評価」だ。
カンザスシティー連銀が公表した会議日程によると、23日には「金融市場と金融政策の伝達」のパネル討論会にシカゴ大のアニル・カシャップ教授やコロンビア大のパトリシア・モッサー氏らが参加する。24日はニューヨーク大のフィリップ・シュナーブル教授が「銀行のバランスシートを通じた金融政策の伝達」と題した論文を公表し、マサチューセッツ工科大のクリスティン・フォーブス教授と議論する。
米国ではFRBの大幅利上げにもかかわらず景気が底堅さを保ち、金融引き締め効果が経済や物価に及ぼすメカニズムや時間軸について再考する機運が高まっている。FRBは来年に5年に1度の政策検証も控える。中長期的な金融政策運営のあり方をめぐる議論にも関心が集まる。
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