中国がついに量的緩和?
ことし3月下旬、市場関係者の間で、あるうわさが飛び交いました。
中央銀行にあたる中国人民銀行が量的緩和に踏み切るのではないか。
不動産不況が長期化する中、景気の下支えをはかるため、国債の買い入れによって市中に出回るお金の量を調整するという非伝統的な金融政策をついに導入するのではとの観測です。
きっかけとなったのは、習近平国家主席の発言でした。
習主席
「中国人民銀行は公開市場操作で国債の取り引きを徐々に拡大すべきだ」
去年10月に北京で開かれた金融に関する重要会議での発言が3月になって明らかになったのです。
利下げなどの金融緩和を進めても不動産不況は一向に改善せず、むしろ悪化の一途をたどっています。
こうした中で明らかになったトップの発言に、量的緩和観測が一気に広がったのです。
その一方で、中国では政策金利の引き下げ余地がまだあり、利下げ余地がなくなって量的緩和を導入した日銀をはじめとする世界の主要な中央銀行とは状況が異なります。
さらにバブルを嫌う習主席が、果たしてバブルを招きかねない量的緩和を許容するだろうか。
そうした懐疑的な見方も出る中、中国人民銀行の潘功勝総裁が6月下旬、国債の売買は量的緩和を意味するものではないとうわさを否定しました。
背景に“国債バブル”
では、なぜ習主席はこうした発言をしたのでしょうか。
背景にあるのが“国債バブル”とも言える債券市場の状況です。
国債は、価格が上がると金利が低下するという関係にあります。
中国の債券市場では、国債を買う動きが続いて、4月下旬には10年ものの国債の利回りが2.205%まで低下。
比較が可能な2000年以降で最も低くなりました。
この水準は1年前と比べておよそ0.5ポイント低く、ここ数年のピークとなる2020年11月と比べると1ポイント以上低下した形です。
そして7月1日には2.2%台を割り込んで2.183%をつけ、過去最低を更新しました。
中国政府がことし3月の「全人代」=全国人民代表大会で明らかにした超長期の特別国債の取り引きが始まったことも国債への注目度を高めています。
先端技術の開発などの重要戦略に投じるとしたこの特別国債。
5月下旬に上海と深※セン(土へんに川)の証券取引所に上場した30年ものの特別国債には、取り引き初日から買い注文が殺到。
それぞれの取引所で2回売買を停止する異例の事態となり、債券市場の異変を強く印象づける形となりました。
国債人気が高まっている理由の1つには、不動産不況の長期化で、景気の先行きに不透明感が広がっていることがあります。
不動産価格は下落に歯止めがかからず、株式市場も不安定な値動きが続いています。
不動産を中心に企業の資金需要が停滞し、金融機関の融資も伸び悩んでいます。
行き場を失ったマネーが安定した利回りが期待できる国債に流れ込んでいるのです。
“バブル”を抑制せよ
この状況を受けて、警戒を強めているのが中国人民銀行です。
利回りが極端に低下すれば、アメリカとの金利差が拡大し、中国の通貨・人民元の下落に拍車がかかるおそれがあり、中国からの資金流出が一段と深刻になりかねません。
さらに、市場が不安定になれば、国債を大量に購入している金融機関が思わぬ損失を被るリスクもあります。
7月に入って中国人民銀行は、公開市場操作に向けて、国債を借り入れることを発表。
市場でうわさされていた量的緩和ではなく、逆に、借りた国債を売って、利回りを適正な水準まで上昇させ、“国債バブル”を抑える準備を進めていたのです。
金融市場も「日本化」の兆し?
中国では不動産不況が内需の停滞を招き、デフレへの懸念もくすぶっています。
少子高齢化や人口減少などの構造的な問題も加わって、中国の専門家の間では、中国経済を「失われた30年」とも言われる日本になぞらえる見方が相次いでいます。
バブル崩壊後、デフレに陥った日本に目を向けると、1990年代後半から2000年代にかけて企業の資金需要が低迷し、債券市場に資金が流れ込みました。
中国で起きている今の“国債バブル”は、「日本化」が実体経済だけでなく、金融市場にもおよび始めたことを映し出しているのではないか。
一部の専門家からはそうした指摘も出始めています。
軽視できない市場の変調
中国経済の「日本化」をめぐっては、「中国政府は日本の経験を非常によく研究しているので、同じ過ちは犯さない」とか、「4%から5%台の成長が続く中国がすぐに日本のような低成長には陥らない」という指摘もあります。
しかし、日本のバブル崩壊やアメリカのリーマンショックの経験からも市場の変調というサインは軽視できません。
とりわけ金融市場の「炭鉱のカナリア」とも言われる金利の動向は注意してみていく必要があると思います。
市場関係者の間で広がった中国人民銀行による量的緩和の導入のうわさ。
これがうわさのままで終わるのか、またしても日本が通った道をなぞることになるのかは、今後の中国政府の対応にかかっています。
注目予定
来週15日、中国で、ことし4月から6月までのGDP=国内総生産が発表されるほか、長期的な経済政策運営の方針を決める中国共産党の重要会議「三中全会」が始まります。
16日にはアメリカで小売売上高が発表されます。
FRB=連邦準備制度理事会が7会合連続で政策金利を据え置く中、政策の先行きを占う上で、個人消費の動向が注目されます。
18日には前回、4年9か月ぶりに利下げに踏み切ったヨーロッパ中央銀行が金融政策を決める理事会を開きます。
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