【ヒューストン=花房良祐】航空機大手の米ボーイングが2018〜19年の小型機の墜落事故を巡り、詐欺罪で有罪を認めることで米司法省と合意した。罰金を支払い、安全対策を巡り外部機関による監視を受け入れる。有罪となったことで焦点となるのが米政府との間の軍用品の取引だ。政府調達先から除外されるのを防ぐため、同社は国防総省と納入継続に向けた協議を始めた。
小型機「737MAX」は18、19年に2回墜落して350人近くが死亡した。ボーイングが当局を欺いて小型機の安全に関する証明を得たことなどが詐欺罪にあたるとして司法省が捜査していた。今回、司法省が訴追の方針を固めたため、同社は罪を認めて罰金を支払うこととした。
罰金は2億4360万ドル(約390億円)を支払う。このほかに安全対策やコンプライアンスの向上のために今後3年間で少なくとも4億5500万ドルを投じる。第三者機関の監視も受ける。
詐欺罪を認め「有罪企業」となったことで、焦点に浮上するのが米国政府との間の国防取引。旅客機ビジネスと並ぶ柱である防衛ビジネスへの影響だ。ボーイングはこのビジネスが影響を受けないように対応に動き始めた。
米国政府は、政府調達に関する規則で有罪となった企業との取引について定めており、有罪企業の取引を禁止することができる。企業が政府取引を続けられるか、その適格性を判断するためだ。
過去には有罪となった企業が政府調達から外された例もある。英BPは2010年にメキシコ湾の海底油田が爆発して深刻な環境被害が発生。安全対策や環境規制に違反した罪などに問われ、巨額の罰金を科されたうえに、米国政府との契約ができなくなった。
米政府は個別案件をその都度判断するため、有罪となった企業は自動的に政府調達の資格を失うわけではない。このため、ボーイングは当局との協議で継続を訴えるとみられる。
ボーイングにとって米政府との軍用取引は欠かせないビジネスだ。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、ボーイングは23年、国防総省から228億ドルを受注した。防衛装備品大手として戦闘機やミサイルなど幅広い軍用品を納入している。
防衛・宇宙部門の売上高は23年に約249億ドルで、商用機部門の339億ドルに次ぐ事業の柱となっている。戦闘機の保守・点検といったサービスも提供しており、米軍の運用体制にも大きく関わる。
ボーイングが政府調達の道を閉ざされれば、米軍や米国の国防体制への影響も大きい。このため、市場や有識者からは、今回の有罪合意を受けても、米政府との取引は継続するとの見立ては多い。米金融機関バンク・オブ・アメリカは「ボーイングは米国の安全保障のインフラに刻み込まれている」と指摘している。
ボーイングの株価は8日、前営業日と比べてほぼ横ばいで終えた。市場も今回の有罪合意による事業への影響は少ないとみている。
もっとも、ボーイングは、これまで通り米政府との軍用取引が継続できるめどが立ったとしても、最優先事項として製造品質への懸念を払拭することが求められることに変わりはない。
懸念はつきていない。米連邦航空局(FAA)は8日、「737MAX」など約2600機の緊急用酸素マスクを点検するよう命じた。このほか、同日は中型機「757」の車輪が外れる事故が西部ロサンゼルスで発生した。第三者機関の監視がなければ問題を解消できないようだと、長年築いてきたブランド力の回復は見込めない。
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