【ワシントン=赤木俊介】米連邦準備理事会(FRB)は17日発表した地区連銀経済報告(ベージュブック)で、2024年2月下旬以降の米経済活動が「わずかに拡大した」と総括した。物価の上昇率は3月発表の前回報告からほぼ横ばいで、多くの関係者はインフレが今後も鈍いペースで続くとみている。
全米12地区のうち、ボストンやクリーブランド地区など10地区は経済活動が僅か、または緩やかに拡大したと報告した。ニューヨークとフィラデルフィアの2地区は横ばいだったと報告した。
ベージュブックは前回報告に続き、企業による消費者への価格転嫁が難しくなっていると記した。ミネアポリス地区で専門サービスを提供する事業所は取引先の反発があり、「人件費の上昇を価格に反映することに限界を感じている」と述べた。
運送費の値下げを強いられたクリーブランド地区の運送業者は「ほとんど利益が出ない」と嘆いた。
物価高は中低所得層にも重くのしかかる。こうした世帯を支援する非営利団体を対象としたクリーブランド地区連銀の調査では、3分の2が「過去半年で物価高により低中所得層の家計が悪化した」と回答した。
ダラス地区は衣食住や医療保険の加入手続きを支援する非営利サービスの需要が高止まりしていると報告した。同地区では物価高が長期化し、副業を探す人も増えた。半面、物価高は非営利団体の運営にも影響を及ぼしており、ベージュブックは「サービスの縮小を図る非営利団体もあった」と説明した。
リッチモンド、アトランタ、サンフランシスコなど6地区は保険料の値上がりが物価の上昇圧力となっていると報告した。一方で、紅海の情勢悪化や米東部ボルティモア港の橋の崩落事故は輸送の遅延につながったものの、現時点では物価への影響は少ないとした。
セントルイス地区の小売事業者は保険料が2倍に増えたと話す。カンザスシティー地区では複数の事業者が保険料の値上がりが「経営コストの大幅な増加につながった」と報告した。カンザスシティー地区の関係者は人員増強のために拡充した医療保険など福利厚生のコストが粘着的で、削減できないと述べた。
個人消費の伸びは地区や業界によってばらつきがあり、まだら模様だった。アトランタ地区では需要が伸びたものの、消費者の価格感度がなお高く、裁量的支出は減ったという。ミネアポリス地区で大型小売販売店を経営する関係者は「客足は増えたものの、来店ごとの支出は減った」と述べた。
高金利環境は依然として経済活動に下向きの圧力をかける。ニューヨーク地区は高金利により自動車の販売が低迷したため、ローンの利払いを消費者に代わり負担する「ゼロ金利」制度を導入した自動車製造業者も出てきたと報告した。
控えめな経済活動の背景には利下げへの期待もある。クリーブランド地区の銀行員は「多くの企業が高金利を理由に後回しにしてきた(設備投資の)ニーズや、事業拡大、成長や投資の機会を前進させたいと考えている」と指摘した。フィラデルフィア地区では複数の建設業関係者が利下げを見越し計画を延期していると報告した。
リッチモンド地区の法律事務所は年後半の利下げに期待し、不動産の新規取引を含め金利が関連するあらゆる取引を先送りする顧客が増えたと報告した。
報告書は24年4月8日までの情報に基づき、各地区連銀の管轄地域での経済活動をまとめた。次回4月30日〜5月1日の米連邦公開市場委員会(FOMC)の討議資料となる。
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