ロシアはウクライナの発電施設への攻撃を続けている(5月、ウクライナ西部)=ロイター

ロシアがウクライナの発電施設への攻撃を強めている。3月以降にミサイルや無人機(ドローン)での攻撃が増え、5月に入っても続いている。ロシア軍はウクライナの防衛産業などの能力低下や市民の戦意喪失を狙っているとみられる。市民は自家発電などの対応を進め、ロシア軍の攻撃への備えを進めている。

ウクライナ当局によると3月22日夜、ロシア軍はウクライナのエネルギー関連施設をミサイルなど約150発で攻撃した。ウクライナ軍は迎撃したものの南部ザポロジエ州や東部ハリコフ州など都市部の施設が大規模な損害を受けた。

4月11日にはロシア軍による攻撃で首都キーウ(キエフ)近郊のトリピルスカ火力発電所が破壊された。同発電所はキーウ州、チェルカーシ州などに電力を供給している。

ロシア軍は5月8日にも50発以上のミサイルを発射し10カ所以上のウクライナのエネルギー施設を攻撃した。複数の都市で停電が発生するなどロシア軍による攻撃は断続的に続いている。

ウクライナのハルシチェンコ・エネルギー相は5月、ロシア軍の相次ぐエネルギー施設への攻撃によって「エネルギー部門に10億ドル(約1570億円)以上の損害が生じた」と述べた。ロイター通信が伝えた。

2022年2月にロシアによる侵略が始まった当初から、ウクライナのインフラ施設は攻撃対象だった。ただ従来、ロシア軍はより多くの対象物に損害を与えようとしていたのに対し、現在は特定の標的を選び完全に破壊するまで攻撃する戦術をとっているようだ。

ハリコフなどで停電が相次ぐなか、市民は自家発電などで対応を進める。ハリコフ市に住む児童心理学者のアンナ・ギン氏は「美容院でさえも発電機や充電装置を備えている。タブレット端末を持った若者が集まって発電機を利用し、オンラインスクールで授業を受けている光景もみかけた」と話す。

会計士のユリア・レヴェネツ氏は「地下鉄では列車の運行間隔が広がっている。ラッシュ時は10分、平時は20分だ。市民の誰もが電力不足に適応している」と語る。

ロシア軍のミサイル攻撃で破壊された発電施設は1960年〜80年代など旧型のものも含まれるといい、専門家の間では復旧の手法について議論が進む。

ウクライナのシンクタンク、ラズムコフ・センターでエネルギー分野を担当するオメルチェンコ氏は「既存のインフラを補修しつつ、太陽光発電所や風力発電所、ガス発電など分散した発電設備の建設に資金を用いるべきだ」と主張する。

分散した発電ネットワークを構築できれば、今後ロシア軍が再び発電施設を攻撃してきても、電力網を寸断することは容易ではないとみられている。

この記事はキーウ在住のフリージャーナリスト、ワジム・ペトラシュク氏の取材を基に編集しました。

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