輸出向けのため港にならぶ自動車(3月、中国山東省)=AP

【北京=塩崎健太郎】中国国家統計局が16日発表した2024年1〜3月の実質国内総生産(GDP)は前年同期比5.3%増えた。電気自動車(EV)などの生産・輸出や官製投資によって景気を底上げした。不動産不況を起点とする深刻な内需不足は変わっておらず、デフレ圧力も残ったままだ。

成長率は日本経済新聞社と日経QUICKニュースが調べた市場予想の平均(4.5%)を大きく上回り、23年10〜12月の5.2%より加速した。

中国政府は3月、24年の成長率目標を「5%前後」と定め、李強(リー・チャン)首相は目標達成が「容易ではない」と語っていた。

予想を上回る高成長の背景には好調な生産がある。1〜3月の工業生産は前年同期比6.1%増え、23年通年の伸び(4.6%増)を上回った。電子部品やEV向け充電設備などが4割増えた。

堅調な生産を受けて、EVを含む自動車の輸出も伸びた。中国税関総署の1〜3月の貿易統計によると、ドル建ての輸出額は前年同期を1.5%上回った。四半期ベースの伸び率がプラスとなるのは1年半ぶりだ。

もっとも、輸出の伸びは国内の需要不足の裏返しでもある。3月の製造業購買担当者景気指数(PMI)によると、回答企業の6割超が「需要が不足している」と答えた。

余剰生産となった安価な製品が海外に回り、デフレの輸出と問題視する欧米との経済摩擦に発展しつつある。

官製投資で景気を押し上げた形跡もある。工場の建設などを示す固定資産投資は4.5%増えた。増加率は23年通年(3.0%)を上回るペースだ。

このうち、政府が景気の下支え役と位置づけるインフラ投資は6.5%増加した。ただし民間投資は0.5%増にとどまり、国有企業を中心とする景気対策の色合いが濃い。

中国政府も財政出動による景気押し上げに前向きだ。23年には1兆元(約21兆円)の新規国債を増発し、同年夏に豪雨災害を受けた地域の復興に充てるなどした。残りの5千億元(GDPの0.4%分)を24年に使う計画だ。

不動産不況の構造問題は変わっていない。マンションなど不動産開発投資は1〜3月に前年同期比9.5%減少した。住宅や商業施設などの新築不動産の販売面積も19.4%減った。

住宅販売の減少は家具や家電といった耐久財の買い替え需要の不振に直結する。消費者の節約志向も根強く、足元で自動車やバイク、通信機器など耐久財の値下がりが目立つ。

百貨店、スーパーの売り上げやインターネット販売などを合計した1〜3月の社会消費品小売総額(小売売上高)は前年同期比4.7%増だった。23年通年の7.2%増と比べ、消費回復の勢いは鈍い。

伊藤忠総研の玉井芳野主任研究員は「不動産不況による景気停滞が続くなか、成長目標達成のために製造業投資や輸出への依存が高まる」と話す。

生活実感に近い名目GDPは前年同期から4%ほどの拡大にとどまった。名目成長率が実質成長率を下回るのは23年4〜6月から4四半期連続だ。GDPの「名実逆転」はデフレ圧力の強さを示す。

中国政府は24年の名目成長率を7.4%程度と見通す。デフレ圧力が和らぎ、5%前後とする実質成長率を上回ると見込むものの、目標達成には民間需要の盛り上がりが欠かせない。

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