大阪市高速電気軌道(大阪メトロ)は10日、大阪市内で自動運転の大型バスの運行を始めた。人通りや車の多い市街地で自動運転バスを運行するのは全国的にも珍しい。走行データなどを集めて、運転手不在などより高度な自動運転の実用化を目指す。
10日の正午頃、大阪城近くのターミナル駅・京橋駅前を自動運転バスが発車した。運転手がハンドルから手を離した状態でもスムーズに車線変更をするなど、乗客10人ほどを乗せて滑らかに走行した。買い物や通院の足として使うため試しに乗ってみたという中川千鶴子さん(79)は「人が運転するバスと乗り心地は変わらず快適」と話した。
自動運転バスは2025年10月末まで運行する。25年国際博覧会(大阪・関西万博)の開催期間を含め、約1年間に及ぶ。乗客は通常の路線バスと同じ運賃(大人210円)を支払い乗車する。運転手のハンドル操作や加減速をシステムがサポートする自動運転「レベル2」で実施する。
バスは大阪城周辺を運行し、繁華街の京橋や幹線道路が通る森ノ宮など交通量の多い場所を走る。大阪メトロは特定条件下で運転手が不要になるレベル4のバスの大阪市内での社会実装を目指しており、走行データや乗客の反応を基に安全性や実用性を検証する。
大阪メトロの柿本恭志・モビリティ技術開発部長は「技術的な検証に加え、実際にお客が使いたがるかなど事業として成り立つかどうかも検証していく。持続可能なインフラを構築していきたい」と意気込む。
日本バス協会の試算によると、17年に約13万3000人いたバスの運転手は30年には9万3000人まで減少するとされる。大阪府でも23年12月に乗務員不足などを理由に富田林市などを走行していた金剛バスが全路線を廃止するなど影響は出始めており、自動運転バスの実用化への期待は高い。
23年4月施行の改正道路交通法でレベル4での走行が可能になり、自動運転バスの実用化に向けた動きが広がる。5月には福井県永平寺で小型カート、24年7月には東京都大田区の複合施設で小型のコミュニティバスの運行が始まった。
ただ人や車が多い大都市の市街地での大型バス運行は難易度が高いとされ、人通りの少ない郊外での運行や小型のバスを使った低速での走行にとどまる。
自動運転に詳しいSOMPOインスティチュート・プラスの新添麻衣上級研究員は「三大都市圏の市街地で自動運転バスが走行するのはほとんど初めてだろう」と話し、「より現実に近い状況で走行することでシステムも鍛えられる」と評価する。
10日の自動運転バスの最初の便はシステムトラブルで自動運転が正常に機能せず、人の手で運転した。運転の安全性を向上させるだけでなく、こうした運用上の課題を洗い出すことも重要になる。
自動運転で先行する米国や中国では街中を無人のタクシーや運転席に乗務員のいないバスが走行している。今回の取り組みの結果次第では、米中に後れをとる自動運転バスの実用化に一歩近づくことになる。
(谷本克之)
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