中小企業や小規模事業者向け無料の経営相談所「よろず支援拠点」を、政府が全ての都道府県に設けて10年が経過した。売り上げ拡大や商品開発、人手不足といった相談対応は延べ300万件を超えた。中小企業診断士や弁護士らが経営者の課題解決に“伴走”する地道な取り組みが続く。
「専門家に付いてもらい、数字を見て考える大切さを知った」。宮崎市のバラ園「こどものくにガーデン」を管理するガーデナー、源香(みなもと・かおり)さん(49)は話す。よろず拠点の助言で挑戦したクラウドファンディング(CF)で目標額を上回る516万円を集め、看板作製や備品購入などに充てた。
バラ園は当時、運営会社から管理委託費が半減される事態に直面。よろず拠点の中小企業診断士、中城健太(なかじょう・けんた)さん(36)は「CFは応援してくれる人が見える。金融機関の融資や自治体の補助金よりも『みんなでつくる』ことでドラマが生まれると思った」と振り返る。
経営相談を経て、温泉旅館からフォトスタジオに業態を切り替えたのが秋田県大仙市の「ドレスリゾートこわくび」。東日本大震災後に経営難に陥り、新型コロナウイルス禍が追い打ちとなった。日々の運転資金が必要な旅館業を終え、宿泊客向けサービスだったドレス撮影を専業にした。
今は、千着超そろえたドレスを自由に着てもらい、撮影し放題のプランが人気だ。女性グループや家族連れのほか、コスプレやウエディング写真撮影目的の客も訪れる。
伊藤竜寛(いとう・たつひろ)さん(66)、久子(ひさこ)さん(60)夫妻はホームページや交流サイト(SNS)、館内の展示などについても助言を受けた。竜寛さんは「支援は心の支えで、自信を持たせてくれた。これからも2人で続けていきたい」と前向きに話す。
よろず支援拠点全国本部(中小企業基盤整備機構)によると、2014年度の設立から年々増えていた全国の相談件数はコロナ禍で急増。2023年度は約43万件と前年度より18%減ったが、コロナ前の水準を上回った。
中小企業庁の担当者は「全ての答えをよろず拠点が出すのではなく、信頼関係を築きながら、経営者が課題を認識し自立していくのが理想だ」と指摘する。
2024年4~6月の相談対応は山梨や滋賀、徳島の3県は各約1300件にとどまり、都道府県ごとに件数のばらつきが大きい。中企庁は認知度向上に向け、中小企業と接点が多い金融機関などに紹介してもらえるよう働きかける方針だ。
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