秋以降、京都から液化CO2を運ぶ予定の専用船(6月、北海道苫小牧市)

工業地帯の二酸化炭素(CO2)を回収して地下に埋める「CCS」で、海上輸送プロジェクトが始まる。伊藤忠商事や電力大手は10月から、京都の火力発電所のCO2を液化し、貯留地のある北海道まで船で運ぶ。国内初の実証で、ノウハウを蓄える。CCSは欧米が先行し、適地が少ない日本は遠くに運ぶ技術や環境配慮の枠組みを急ぐ。

日本海を望む京都府舞鶴市を7月に訪れると、港に石炭の運搬船が泊まっていた。舞鶴火力発電所は関西電力の唯一の石炭火力で、発電能力は2基で180万キロワットと関電の供給全体の5%ほどを占める。

敷地には高さ40メートルの目新しいプラントがそびえ立つ。川崎重工業と地球環境産業技術研究機構(RITE)が設けてCO2を低温、省エネルギーで回収する技術を試している。

電力、商社、資源、エンジニアリングなど30社以上が出資する日本CCS調査(東京・千代田)などは10月、舞鶴で回収したCO2の海上輸送を始める。CO2の液化、貯蔵、船舶輸送を実証し、伊藤忠商事が事業性を検討する。日本CCS調査や新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を通じ、日本全体に知見を蓄える狙いだ。

舞鶴から苫小牧まで約1000キロメートル

専用の内航船は全長が100メートル弱で、三菱造船などが開発した。体積を気体の500分の1にした液化CO2で、850トン分を積める。火力発電所から出たCO2を液化して敷地内のタンクで貯蔵し、船で約千キロメートル離れた北海道苫小牧市まで運ぶ。年間の輸送量は数万トンの見通しで、瀬戸内海や太平洋のルートでも波の影響を検証する。

CCSは工場や発電所の排ガスからCO2を回収し、高圧で地下深くに埋める。国際エネルギー機関(IEA)は2050年に世界で最大76億トン分のCCSが必要と試算。海外はパイプライン輸送の計画が多いが、日本は油田跡地など貯留の適地が少なく、遠くに運ぶ技術がいる。

日本CCS調査などによると回収から液化、海上輸送、貯留までのプロセスで一定のCO2を排出するが、貯留量が上回るという。

マイナス50度、低温・低圧で目指す大量輸送

欧州ではノルウェーの国営石油エクイノールなどが24年度にも、マイナス20度程度の液化CO2を船で輸送する。日本勢は温度を低くして圧力を下げ、薄くて軽いタンクでの貯蔵・運搬を実証する。

京都―北海道間では船内のCO2を段階的にマイナス50度まで下げて保管。一隻に大量のCO2を積んでコスト削減を狙う。

まだ技術の課題は少なくない。CO2は圧力が下がりすぎるとドライアイスになり、配管が損傷する懸念がある。荷揚げや液化の設備で配管の太さをそろえ、タンクへの積載時や波の揺れで圧力が変わらないように工夫する。実証では1時間に200トンのCO2を船に積み、実用化へ増やしていく。

日本は50年のカーボンニュートラル(温暖化ガスの排出実質ゼロ)を掲げるが、化石燃料のクリーンエネルギーへの完全な置き換えが難しい産業もある。経済産業省はCCSを「現実解」とし、30年に年間600万〜1200万トンの貯留地の確保を急ぐ。

事業化を検討する先行プロジェクトに9件を選び、6件がCO2の船舶輸送を想定している。日本CCS調査の岩上恵治専務は「京都―北海道の実証で液化や輸送のデータを集め、各社の最終的な投資決定に生かせるようにする」と話す。

すでに商船三井が6万トン規模の液化CO2を運ぶ船の設計で基本承認を得た。今治造船は三菱造船などと大型船を開発する。

経済産業省は50年に現在の排出量の1〜2割に相当する年1.2億〜2.4億トンを貯留しないと、脱炭素の達成が難しいとみる。

そのため生産量の減った油田・ガス田があり、CCSに積極的な海外と連携する動きが増える。石油資源開発はマレーシア国営石油のペトロナスなどと組み、日本で回収したCO2を年190万〜290万トン規模でマレーシアに輸送する事業を検討。三井物産は35年までにアジア・太平洋地域を中心に、CCSで年1500万トン分の権益の確保を目指す。

大きな課題の一つは採算性だ。CCSの総事業費は大型だと1千億円規模になる。三菱総合研究所の新地菊子主席研究員は欧米が先行する背景について「米国はCO2を回収した事業者の税控除を拡充し、英国はCCSを組み合わせた発電事業に支援金を出し、CO2の回収メリットを明確にしている」と指摘する。

RITEは足元の1トン当たりのCCSコストについて、パイプライン輸送で陸に貯留する場合、1万2800円と試算する。一方で船舶輸送は1万9500(陸上貯留)〜2万200円(海上貯留)とみる。分離、回収、輸送、貯留の各ステップでコストを下げる技術革新がいる。

国際組織「グローバルCCSインスティテュート」によると、世界では392件(計画中含む)のCCSプロジェクトがあり、北米や英国が多い。ノルウェーでは欧州各地から海上輸送で集めたCO2を貯留する構想「ノーザンライツ」で、基地の整備が進む。

米国や豪州の一部計画には地元が反対

CCSは環境団体から「化石燃料の利用を延ばす技術」などの批判があがり、米国やオーストラリアの一部計画には地元の反対も起きている。適地の少ない日本はまず再生可能エネルギーや省エネの導入を加速し、CCSでは安全性やコスト低減、環境への影響を抑える先端技術の確立が重要になる。(泉洸希)

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