厚生労働省は6日、物価変動の影響を加味した6月の実質賃金(現金給与総額ベース)が前年同月比1.1%増となり、27カ月ぶりにプラスに転換したと発表しました。過去最長だったマイナスが転換した背景や、今後の見通しなどをまとめました。(渥美龍太)

 実質賃金 働き手が受け取る額面の給与に、物価変動の影響を反映させた指標。基本給や残業代など給与の合計を、モノやサービスの値動きを示す消費者物価指数で割って算出する。物価が給与以上に上がれば、賃金の実質的な価値は下がるため、働き手の購買力を示す指標になっている。

 Q なぜ、プラスに転換したのでしょうか。  A 最大の要因はボーナスです。主にボーナスが占める「特別に支払われた給与」が同7.6%増の21万4542円と急増しました。春闘での大幅な賃上げが毎月の給与に反映されてきたこともあり、主に基本給が占める「所定内給与」も2.3%増の26万4859円と約30年ぶりの高い伸び率でした。この結果、額面と呼ばれる名目賃金は49万8884円の4.5%増となり、消費者物価指数(CPI、持ち家の帰属家賃を除く総合)の上昇率3.3%を上回ったのです。  Q これで実質賃金のプラスは定着しますか。  A 分かりません。ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎氏は「今回はボーナスの増加による一時的なプラス」との見方をしています。6月にボーナスを支払った事業所数は増えたのですが、例年なら7、8月に支払っていたのを前倒ししただけの可能性もあります。それにボーナスを除いた「きまって支給する給与」をベースにした実質賃金は1.0%減で、29カ月連続のマイナスでした。日々の消費など実際の生活に影響するのは「きまって支給する給与」の方との見方があります。  実質賃金のプラスが続くには、額面の伸びがCPIの伸びを安定的に上回る必要があります。しかしCPIの動きも見通しにくいのです。専門家による2024年度のCPI(生鮮食品を除く総合)上昇率の予測(日本経済研究センターまとめ)を振り返ると、昨年1月時点では1.15%に落ち着くとみていたのに上方修正が繰り返され、今年7月時点では2.52%です。  Q 金融市場が混乱しています。実質賃金に影響するのでしょうか。  A 株だけではなく輸入物価を左右する為替も乱高下しており、実質賃金に影響することはあり得ます。それに為替が大きく円高に進めば輸出企業の収益が押し下げられ、大きく円安になれば原材料費がかさむ中小企業の業績が圧迫されます。いずれにしても賃上げの勢いが鈍りかねず、来年度の春闘に悪影響が及ぶ可能性もあるのです。 

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