日銀の7月決定会合では、政策金利を0.25%に引き上げる追加利上げを決定しました。また、日銀が毎月6兆円ほど買い入れている国債の購入額の減額内容も決めました。今回の決定で住宅ローンの金利はどうなるのでしょうか。住宅ローンアナリスト「モゲ澤」さんとして知られ、住宅ローン比較サイト「モゲチェック」を運営するMFSの塩澤崇COOに聞きました。(石川智規、白山泉)

日銀決定会合と住宅ローンについて語るモゲチェックの塩澤崇COO

◆物価上昇に道筋が立ったと判断か

 ―日銀が追加利上げを決定しました。この7月会合の結果をどう読み解きますか。  賃金上昇の流れから、日銀が目指す物価上昇に道筋がついたと判断したのだと思います。現在の賃金上昇が定着すると、秋ごろには実質賃金がプラスに転じる流れになるはず。そうしたシナリオを踏まえ、日本経済は以前よりも強まるはず、ならば金利を0~0.1%にとどめる必要はないという風に判断したんだと思われます。とはいえ、アメリカのように経済が強いわけではないので、まずは0.25%へと小刻みな利上げになったことが考えられます。

◆政治的圧力?

 また、今回の利上げには政治的圧力もあると思います。政治側からの圧力として「円安を何とかしろ」とプレッシャーを受けてきたことが大きかったのでは。円ドルの為替相場は政治問題化しやすいし、メディア側も取り上げやすいですよね。ハワイに行ったらハンバーガーが高すぎて買えない、とか。だから1ドル=160円台とかだと「おい日銀何とかしろ」と。金利が高いアメリカとの金利差が広がったままでは、円を売ってドルを買う動きも広まりやすい。最近の円安基調の一因に、日米の金利差があったこともあります。

◆為替コントロールは日銀の責任なの?

―しかし日銀の金融政策は為替相場をターゲットにするものではありませんよね。

 その通りです。原理原則としては、為替は日銀のあずかり知らぬところであって、対策を行うべきは政府であり財務省。為替介入などを行うかどうかを決めるのは主に財務省です。ただ、植田総裁は利上げの理由として政治圧力などと言及することはないでしょう。なので、あくまで推測ということになってしまいますが。

◆住宅ローンの金利はどうなる

 ―住宅ローンの変動金利の見通しを教えてください。

 今回の利上げにより、変動金利はいずれ0.15%ほど上がるのではと思います。日銀が利上げをすると、変動金利の指標となる「短期プライムレート」が8月末から9月ごろに0.15%引き上げとなります。短プラ引き上げと同時に変動金利の基準金利も0.15%引き上げとなる流れです。  しかし、変動金利が来月からただちに上がるということは考えにくいです。まず、これから住宅を買って新規に変動金利でローンを組む人ですが、8月はほぼ影響はないでしょう。9月以降は引き上げを行う銀行が出そうです。ただ、ネット銀行を中心に新規顧客がほしいところは戦略的に金利を上げない可能性があります。同業他社との競争があるので、金利を上げるところもあれば上げないところもある、と判断が分かれるでしょう。

◆変動金利の上昇には時間差が生じる

 変動金利で既に借りている人も、借入金利が上がるのにはタイムラグが生じます。各銀行が変動金利を上げるか上げないかの判定を行うのは毎年10月と4月。その判定後、実際に金利が上がるのはさらに3カ月後。したがって、実際に金利が上がるとしたら2015年1月以降という見立てが成り立ちます。逆にいえば、日銀が利上げをしたからすぐに変動金利も上がる、ということにはなりません。  ―今回は国債買い入れ額の減額も決めました。長期金利が上昇基調となり、住宅ローンの固定金利にも影響が出ることが予想されます。その仕組みをあらためて整理してもらえますか。  分かりやすくいうと、まず国債には値段があります。一般的なモノと同じように、人気が出て買い手の数が増えればその値段は上がります。一方、買い手が少なくなれば値段も下がる。当たり前の経済原則です。今までは日銀が結構な量の国債を買って値段が上がっていました。で、よく言われる金利はそれの逆数と考えてください。値段が上がれば金利は下がる。  今回、国債の買い入れを減額すると決めたので、国債の値段は下がり金利は上がります。

日銀決定会合と住宅ローンについて語るモゲチェックの塩澤崇COO


 なぜ減額するのか。今まではあえて金利を低くしてみんながお金を借りやすくし、経済活動に使ってもらえるよう促していたのですが、これは集中治療室で大量の薬を投与している状態でした。  そこからだいぶ回復してきたので、一般病棟に移して正常化を図ろうと。それが今回の国債買い入れ減額です。これまで抑え込んでいた金利が今後はじわじわ上がる可能性があります。

◆固定金利はいずれ2%超えか

 これが住宅ローンの観点ではどうなるか。国債の金利である長期金利は、住宅ローンの固定金利と連動しています。長期金利が上がれば、ローンを貸し出す銀行も固定金利を上げようとします。「フラット35」という代表的な固定金利の銘柄商品は、いま1.8%くらいの金利ですが、今後は2%を超えてもおかしくないと思います。

◆一本調子とはならない?

 ―今後も継続的に固定金利が上がるのか上がらないのか気になります。

 一本調子でどんどん上がっていくことにはならないと思います。固定金利に影響を及ぼすのは日本の長期金利だけではありません。アメリカの金利も日本や世界に影響を及ぼします。アメリカの中央銀行であるFRB(米連邦準備制度理事会)は、9月以降に利下げをするのではないかと見込まれています。そうなると、グローバル全体で金利上昇圧力が弱まるので、日本の長期金利も上昇が弱まる、もしくは逆に下がることもあり得ます。

◆利上げは将来不安ともリンクする

 ―あらためて日銀が利上げを判断するときのポイントをお願いします。

 金利を正常化するには、やはり経済がしっかりしていないといけないものです。賃金が上がって消費が活発化し、その結果として物価が上がることが前提でしょう。そうした経済情勢になっているかどうか。  あと、個人的には老後の不安をいかに解消できているかも重要と考えます。だって今の若い人たちは年金をもらえるなんて信じていないし、だから老後に備えて貯金や投資をして消費に回すお金がない、という人が多いんじゃないかと思うんです。  財布のひもを安心して緩められる状況になるのか。いろんな足かせがなくなっていかないと、金利を米国並みにどんどん上げる局面にはならないと思います。

 塩澤 崇(しおざわ・たかし) 日本最大の住宅ローン比較情報サイト「モゲチェック」COOを務める。SNSのX上では「モゲ澤」として住宅ローンを選ぶ上でのアドバイスを重ねている。2006年東京大学大学院情報理工学系研究科修了後、モルガン・スタンレー証券。2015年9月からMFS取締役COO。



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