10万円超の化粧品も 高価格帯がけん引

東京の大手化粧品メーカーでは、ドラッグストアなどで販売する商品から、デパートなどで取り扱う、いわゆる“デパコス”まで幅広いラインナップをそろえています。

その中で、いま会社の売り上げをけん引しているのが、高価格帯のハイブランドです。

化粧水、美容液など多くの商品が1万円超で、最も高いものでは、植物成分や保湿成分を豊富に配合したというクリームが1個13万2000円。

毎日使って3か月ほどの量があるといわれる商品ですが、気軽には手が伸びにくい値段と言えそうです。

それでも、こうした高価格帯ブランドの国内売り上げはことしに入り、前年比2桁増だというのです。

「購入している客の多くは、訪日外国人では?」そう思い、担当者に尋ねてみると…

コーセー担当者
「いえ、購入している人の大半は、訪日外国人ではありません。20代から30代の若年層の方に特に購入いただいています。最近では良いと思ったものにはしっかりと投資するトレンドが、より顕著になってきているように思います」

高価格帯の化粧品の需要が若い世代に広がる現状、エコノミストは。

伊藤忠総研 武田淳チーフエコノミスト

伊藤忠総研 武田淳チーフエコノミスト
「ことしの賃上げは人材確保の観点から、特に若い層に対して大きく行われた側面があります。そうした人たちが、実際に所得に余裕が出たり、賃金が上がる期待を高めたりしたことで、高価格帯のものに手を出しやすくなっているのかもしれないと推測できます」

経済指標では伸び悩みも

ことしの春闘で賃上げ率が33年ぶりの高い水準となる中、力強い消費の“芽”は出始めているようです。

ただ、経済指標から見える消費動向は依然、伸び悩みが続いています。

総務省の家計調査で、2人以上の世帯が消費に使った金額は、物価の変動を除いた実質で、ことし5月が前年同月比で1.8%減少しています。

このうち支出の割合が大きい「食料」は3.1%減少し、食費を抑える傾向が見て取れます。

園芸用の苗にも“生活防衛”

節約志向は、意外なところにも広がっています。大手ホームセンターでは、園芸用の苗の売れ筋に変化が起きていました。

観賞用の花の苗は売り上げが落ち込む一方、食用になる野菜の苗の販売が伸びているというのです。

ことし5月までの3か月間の既存店全体の業績は、客数が前年同期比で6%ほど落ち込み、売り上げも減少しました。

大手ホームセンター担当者
「特に、趣味で使うような商品は売れなくなっていて、そうした購買行動にも節約志向が表れていると思います。円安をきっかけに、客の生活防衛意識は高まっているように思います」

二極化する消費 日銀も把握

高価格帯の販売の伸びと、節約志向の高まりが共存する、消費の二極化。

今月、植田総裁が出席して開かれた日銀の支店長会議でも、全国の支店からそうした動きが報告されていました。

地域経済報告より抜粋
「食料品や日用品の値下げを実施。値下げをした商品の販売は非常に好調であり、顧客の節約志向の高まりを感じる」(高松・商業施設)
「物価上昇の影響が続くもとで旧型モデルなどのセール品や廉価品の引き合いが強く、引き続き販売動向は弱め」(福岡・家電販売)
「富裕層を中心に高価格帯の化粧品やブランド品の売れ行きが好調」(金沢・百貨店)
「国内レジャー客の需要は、宿泊価格を引き上げるもとでも底堅く推移している」(大阪・宿泊)

日銀大阪支店 神山一成 支店長

日銀大阪支店 神山一成 支店長
「スーパーでは消費者の低価格商品へのシフトや買い上げ点数の減少など、節約志向やメリハリをつけた消費をする傾向が強まっている。消費者の間で二極化が進んでいることが現実」

鍵を握る 実質賃金

二極化する個人消費。日銀は先月時点で「底堅い」と判断していますが、市場などではその弱さを指摘する見方も出ています。

そして、今後の鍵を握るとされる指標が「実質賃金」です。物価の変動分を反映した実質賃金は、ことし5月で26か月連続のマイナス。

これがプラスに転じ、物価の上昇分以上に賃金が伸びる状況になれば、停滞する消費を動かし、経済の好循環への道筋がより確かなものになるとの見方が有力です。

伊藤忠総研 武田淳チーフエコノミスト
「ことしの春闘による賃上げの反映が進み、物価の上昇が少し落ち着くため、実質賃金は8月分からプラスに転じるのではないかと予想しています。円安への警戒感や物価上昇のため、消費マインドはさえない状況が続いていましたが、夏のボーナスや実質賃金の増加により改善するのではないかと考えています」

好循環、そして利上げへ正念場

植田総裁は、物価上昇率が見通しに沿って2%に向けて上昇していけば、利上げに踏み切る考えを示しています。

日銀内部には、円安による輸入物価の上昇で物価の基調が上振れするという見方がある一方、実質賃金のマイナスが続く中で個人消費の動向を見極めたいとの声も聞かれます。

こうした中、厚生労働省の審議会は今週、今年度の最低賃金について、過去最大となる時給で50円引き上げる目安をまとめました。

経済の好循環に向けた賃上げのすそ野を広げる下地を、もう一段、固めた形です。

消費の腰折れを避けながら、金融政策の正常化を進めることができるか、日銀は、難しい判断を迫られています。

注目予定

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