70歳まで定年延長 でも若手は?

明治安田生命が2027年度から始める制度では、保険を販売する営業職員以外の定年を本人の希望に応じて、いまの65歳から70歳まで延長する。

これまでは、いったん会社を辞めて、非正規で再雇用する形で70歳まで働けるようにしていたが、給与水準は6割から7割に下がっていた。

新たな制度では、同じ役割、同じ働き方なら、今までと同じ金額がもらえる。

かつ、週3日勤務や4日勤務など働き方も選べるようになるという。

人手不足や若手の人材流出を背景に、経験や知識が豊富なシニア人材を活用する動きだ。

定年を70歳に延長する動きは大手金融機関では初。

70歳定年を導入している企業はまだ多くはないが、今後、広がっていく可能性がある。

ただ、そこでひとつ疑問が出てくる。
「若手のやる気がそがれないか?」ということだ。

会社の中で、与えられる役職の数や、給与の原資は限られている。

もし、定年延長に伴って、若手がなかなか昇進できなくなったり、本来もらえるはずだった給与がもらえなかったりすれば、若手の不満を招くおそれはないだろうか。

転職への意識の変化

そうでなくても若手の働き方への意識は変化している。

就職情報大手の「マイナビ」が2023年に新入社員を対象に行った調査では「いまの会社であと何年働くと思うか」という質問に対し、「3年以内」と回答した人が全体の24.1%と、4人に1人に上った。

10年以内で見ると、半数近い。

実際、2016年に5%だった20代の転職率は、直近2023年の調査では、13%にまで高まっている。

また、転職理由を聞くと、「仕事の内容に不満があった」「給与が低かった」がそれぞれ約25%だった。

次いで、「休日・残業時間に不満」が20%だ。

マイナビキャリアリサーチラボ 関根貴広 主任研究員
「コロナ禍のあと、オンラインで時間や場所を選ばず、中途の採用面接も受けられるようになった。少子高齢化で若手人材の転職市場での価値が高まっている。若手は自分の将来を考え、年齢の近いロールモデルを欲しがっているし、なかなかキャリアアップできない先輩を見ると失望感を抱くケースもある。さらに、このところの賃上げの機運の高まりで、給与水準も比べられやすくなっている」

シニア人材の重視で、もし会社に対する不満が高まることになれば、若手の流出も起きるかもしれない。

若者離れを防ぐには…?

では、70歳までの定年延長を決めた明治安田生命はどう考えているのか。

トップの永島英器社長に直接、話を聞いた。

明治安田生命 永島英器社長

新たな制度が若手のやる気をそぐおそれはないか、率直に尋ねたところ、次のような答えが返ってきた。

明治安田生命 永島英器社長
「そうならないために若手も含め、一人ひとりが自己変革・自己成長を促していくような環境づくりをしていきたい。人にはそれぞれ尊厳があり、世代にかかわらず、個性や価値観を尊重できるような仕組みを整えたい」

実際、この会社では、今年度から年功要素を廃止し、実績や役職をより反映した賃金体系に移行することにしていて、若手の早期登用も加速させることにしている。

30代前半で課長職に就くことができるようになり、役職に見合った給与も支給される。

これにより若くから年収で1200万円も超えられるようになる。

その上で、永島社長はシニア人材についても「シニアの知識や経験は宝だ。会社としても生かし方がある」と強調したうえで、具体例を挙げた。

例えば、初めて営業所長になったばかりで、保険契約の細部まで理解が届いていない若手のサポート。

さらには新人や中途入社してきた人材に、業務の基本や会社のカルチャーを教える役割を担うことも期待しているという。

また、地方出身のシニア職員の中には、東京の本社などで十分働き、将来的には地元に戻って、ふるさとに恩返ししたいという人も少なくないと話す。

この会社では、地域の顧客との接点を強化するため、土日や祝日に地域での健康増進やスポーツ、祭りといったイベントに参加することも多い。

そこで、こうしたイベントには地元の営業所などに赴任したシニアの職員にも関わってもらうことを想定しているという。

そうすることで、平日にフルで働く若手が休みやすい環境も合わせて、つくることができるという。

人事施策に詳しいニッセイ基礎研究所の金明中上席研究員もシニア人材の重視で若手のやる気をそがないためのポイントについて次のように話している。

ニッセイ基礎研究所 金明中 上席研究員
「シニアと若手が同じことをやるのではなく、相互に“補完的”な役割を与えることが大事だ。同じポストを奪い合うのではなく、相互にできないことを埋め合わせる発想が大事だ。たしかに給与の原資は限られるが、会社として個々の勤労意欲を高めて、生産性を高めることができれば、結果的に若手の賃金を上げることにもつなげられる」

定年70歳時代が意味するものは

少子化や高齢化の進展で日本国内の労働人口はますます減少している。

15歳から64歳の生産年齢人口は、ピーク時の1995年に8726万人だったが、2023年は7395万人と1300万人余減少し、今後もさらなる減少が見込まれている。

そうした事情を踏まえると、企業がシニア人材に働いてもらおうと模索する動きは自然なことなのかもしれない。

ただ、それで若者の不満を招いてしまっては本末転倒だ。

深刻な人手不足。

これからは、年齢に関係なく、それぞれの価値観や能力を最大限に生かし、組織全体の生産性をいかにして高めていくかが、より企業経営に求められるようになる。

今回の“70歳定年制度”の導入は、そんな時代の到来を意味するものだと感じた。

注目予定

来週は日銀が金融政策を判断する上で、重視する統計データなどが相次いで公表されます。

8日には、日銀の支店長会議が開かれ、地域経済の実情を伝える「さくらレポート」もまとまる予定で、記録的な円安の影響や、賃上げの動きが中小企業にも広がっているかが焦点です。

10日には消費者物価指数の先行指標ともされる企業物価指数が発表されるほか、12日に公表される日銀の生活意識アンケートでは、人々の物価の捉え方がどのように変化しているかが注目されます。

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