つくば市にある聴覚や視覚に障害のある学生のための唯一の国立大学、筑波技術大学では300人余りが在籍し、来年春に卒業する大学生でも就職活動が本格化しています。

このうち、弱視の障害がある4年生の鎌滝憂也さんは、大学で情報技術を学び、障害者採用ではなく一般の新卒採用で応募したIT企業からすでに内々定を得ていますが、新型コロナの感染拡大を受けて、採用面接などのオンライン化が進んでいることで応募する企業の幅が広がったと感じています。

鎌滝さんは「初めて行く場所に自分で歩いて行くのはかなり難しいことなので、オンラインで面接ができるのはメリットでした。道を調べる準備が必要ない分、受けられる企業の数が増えたと思います」と話していました。

ただ、選考過程の「適性検査」は視覚に障害があると制限時間での回答が難しいなど不利になってしまうと感じたといいます。

このため、適性検査を省略するなど、企業には個別の事情に応じて配慮してもらいたいと訴えています。

鎌滝さんは「適性検査の受検は難しいとか、特定の試験をパスできない可能性があると申し出たとしても、企業によってはその時点で足切りされてしまい、対応してもらえないことが多いと聞くので、就活生と企業がコミュニケーションを取って、適性検査の代わりになるような面接事項が作れないかなど考えていただきたい。企業側には、障害がある中でどう仕事ができるか見てほしい」と話していました。

一方、障害によってハードルや配慮してほしい内容も変わってきます。

先月29日には、聴覚障害がある3年生の学生向けに夏のインターンシップの説明会が開かれました。

会場では、県外の企業とオンラインで結び、手話通訳や字幕を交えて説明が行われ、中には、聴覚障害のある社員が実際にどのように働いているかを手話などでアピールする場面もありました。

参加した男子学生は「僕は聴覚障害があるのですが、手話があまりできないので、文字を見て理解することができたのでとてもわかりやすかったです」と話していました。

ただ、就職活動やインターンシップの選考過程で行われるグループディスカッションでは、議論に追いつけなくなるなど、選考方法によっては不利になってしまうのではないかという懸念の声も聞かれました。

別の男子学生は「エンジニアとして働きたいと思っています。就職活動では、グループディスカッションがあるとほかの人の会話に追いつけないことが心配なので個別に面接してほしいです」と話していました。

採用活動などで障害者支援 十分進まず

大手人材情報会社「マイナビ」がことし2月に行った調査では、新卒採用で障害者に対する何らかの取り組みを実施しているか尋ねたところ、回答した1645の企業のうち、「取り組んでおらず、検討していない」と回答したのは56%に上り、採用活動などで、障害者の支援が十分進んでいないことがうかがえます。

また、採用を行う上での課題や悩みについては、回答した1485社のうち、
▽「障害者に適当な業務がない」が48%、
▽「受け入れ体制が整っていない」が39%、
▽「障害者を雇用するノウハウがない」が27%となっているほか、
▽「採用時に適性や能力を測れるかどうか不安がある」という回答も26%ありました。

専門家 “障害に応じて企業側が環境整備を”

障害者向けの就職情報サイトを運営する「ジェイ・ブロード」の宇津徹也取締役は、企業に義務づけられる障害者の法定の雇用率が今年度から引き上げられたことや「ダイバーシティー」を重視する企業が増えていることから、大手企業を中心に障害者の雇用を積極的に行う企業は増えていて、「障害がある人が働きやすいということは会社の成長にも社会全体のためにもなる」と話しています。

一方、一般採用も含めれば採用活動で障害者の個別の事情に応じて配慮をすることはできていないケースも多く、「聴覚障害者の場合は面接を筆談や手話で行うなど、障害に応じてできないことを補助したり免除したりして企業側が環境を整えることが必要だ」と指摘しています。

そのうえで「長く活躍してもらうためにも、企業側は採用の段階での配慮だけでなく、入社後の配慮もきちんと説明することが必要だ」として、どのような勤務環境を整備し配慮をすべきなのか、企業と障害者の間でコミュニケーションをとることが大事だとしています。

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