膨大な情報処理のためのサーバーなどを置く「データセンター」(DC)が千葉県印西市に集積し、電力需要が急増している。対応のため市内には超高圧変電所が新設され、6月5日までに運転を始める予定だ。生成AIの普及でDCはさらに増える見込みで、見直し議論が始まったエネルギー基本計画でも電力確保策が焦点になっている。(砂本紅年)

◆固定資産税の税収が10年で倍増

データセンター向けの電力需要増加に対応するため千葉県印西市で稼働予定の超高圧変電所

 アマゾン、グーグルなど外資系IT大手のデータセンターが立ち並ぶ印西市。大和ハウス工業も2030年までに、東京ドーム7個分の敷地に14棟のDCが建つ国内最大級のDCパークの整備を進めており、既に2棟が稼働している。  巨大な倉庫のようなDCは、市によると19年ごろから増え始め、公表可能な進出企業は11社で、秘匿性の観点から未公表のケースも。千葉ニュータウン中央駅周辺は「DC銀座」とも呼ばれる。市経済振興課は「他の工場などと比べ騒音や排ガスの問題もなく、税収効果が高い」。固定資産税は10年前の約72億円が本年度は約155億円と倍以上に膨らみ、法人税の増収にもつながっている。

◆「突貫」で地下ケーブル設置

 人気の理由は都心への近さ、地盤の固さ、成田空港へのアクセスの良さなど。東京電力パワーグリッド(PG)によると、DC1棟当たりの消費電力量は一般家庭約1万世帯分。18年からDC事業者による東電PGへの契約申し込みが急増し、19年9月に「大慌てとなりトップダウンに近い形で」(同社担当者)変電所新設の計画を決めた。

地下約30メートルに掘削された内径4.8メートルのトンネル。約10キロにわたって高圧送電ケーブルが敷設された

 深さ20~30メートルの地下に約10キロのトンネルを掘削し、千葉県船橋市の変電所から高圧送電ケーブルをつないだ。本来は最低でも8年はかかる工事とみられていたが、「それでは事業にならない」という企業側の声を受け、超高速シールド機の利用や総勢十数万人の作業員動員などにより、工期を4年9カ月に短縮した。新設で、印西市と白井市の一部での供給力は現在の110万キロワットから27年に230万キロワットに増強される。

◆通信速度維持が立地の条件

 それでも今後想定される電力需要には足りないため、新たな変電所の建設も検討中だ。東電PGの担当者はDCの建設場所として「太陽光発電量が多く、昼間の電力が余っている宇都宮市などをおすすめしているが、都心からの距離で契約に至らない」と話す。電力広域的運営推進機構によると、DCや半導体工場の新増設に伴い全国の需要電力量は33年度、407億キロワット時上乗せされる見通し。  ネット回線が相互接続する通信施設の多くは東京・大手町にあり、DC事業者は通信速度の遅れを防ぐため、大手町から50キロ圏内の立地を求める。国内のデータセンターの8割が関東圏または関西圏に集中していることも電力や防災の面から課題となっている。

◆エネルギー基本計画の論点にも

 国際大の橘川武郎学長(エネルギー産業論)は「DCによる電力需要増加はエネルギー基本計画の見直しにあたり新しい論点になる。ただ、省電力となる光通信技術により、想定ほど電力需要は伸びない可能性もあり、幅広い議論が必要だ」と話す。

 データセンター(DC) サーバーをはじめ情報通信機器などを集めて設置・保管・運用する施設。自社で保有する事業者と他社のDCを賃借するクラウド事業者がある。東京電力管内では印西市のほか相模原市、東京都多摩市、江東区などが人気。DCの地方分散を進めるため、経済産業省は、電力が豊富な北海道、九州への整備を後押ししている。



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