伊藤園は3日、2025年4月期の連結純利益が前期比10%増の172億円になりそうだと発表した。4月には米大リーグの大谷翔平選手とグローバル契約を結んだ効果もあり、米国での販売が伸び、海外事業全体では営業利益が前期比31%増の23億円となる。大谷選手の勢いを借り海外に挑むが、米国消費の変調など対応が必要な課題は多い。

ビジネスTODAY ビジネスに関するその日に起きた重要ニュースを、その日のうちに深掘りします。過去の記事や「フォロー」はこちら。

同日、40年度を見すえた中期経営計画を発表した。主力の緑茶飲料で、24年に発売35周年を迎える「お〜いお茶」の販売地域を、現在の40を超える国・地域から100以上に引き上げる考えだ。販売数量は29年4月期まで年平均24%以上伸ばすといい、そのサポートを託すのが米大リーグでの活躍がめざましい大谷選手だ。

「いつの日も、僕のそばにはお茶がある」。伊藤園のホームページには、大谷選手のメッセージが掲載されている。伊藤園は4月30日、お〜いお茶で大谷選手とグローバルな広告契約を結んだと発表した。

「野球の盛んな台湾、韓国、オーストラリア、中南米などに対してお〜いお茶の認知度をさらに上げていく。米国でも大谷選手の力でリピーターを増やしたい」。3日、都内で記者会見を開いた創業家出身の本庄大介社長はこう期待を込めた。

米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)や英フィナンシャル・タイムズ(FT)、韓国紙「朝鮮日報」など世界60紙以上の新聞に全面広告を出し、5月30日には国内外85カ所超での屋外広告ジャックを発表した。大谷選手の大々的な広告展開に加え、4月にはドイツに、同社として欧州では初めてとなる営業拠点を設けた。

ここに来て伊藤園が海外に力を入れる理由の一つは国内の緑茶市場に吹く逆風だ。飲料総研(東京・新宿)によると23年の緑茶市場は22年比4%減の2億6300万ケースで、24年も減少傾向は続くとみられる。23年には伊藤園を含む飲料大手が値上げしたことで、小売りが手掛ける値ごろなプライベートブランド(PB)にシェアが流れ、苦境は深まった。

お〜いお茶ブランドの販売数量は、伊藤園が取り扱う全飲料の4割強を占めており、経営は国内のお〜いお茶ビジネスに依存する「一本足打法」といえる。

飲料総研によると、23年の各社の国内出荷数量に占める首位ブランドの比率で、お〜いお茶は44%を占めた。サントリー食品インターナショナルの「天然水」は31%、コカ・コーラグループの「ジョージア」は20%で、お〜いお茶は突出する。ブランドとしての強さは際立つが、「値上げなどの影響で国内では数量を落としている」(大介社長)という。

伊藤園は01年、米国に飲料の販売子会社を設立し、海外市場の開拓に乗り出した。大介社長は15年にはティーバッグなどのロゴも含めた海外ブランドを「ITOEN」表記に統一し、世界企業を目指した。ただ、24年4月期の海外事業は全体の売上高の12%で、現時点で伊藤園全体を支えるには至っていない。

海外で最大の北米市場では、米コストコ・ホールセールの販売店舗の拡大や、アマゾン・ドット・コムを経由した販売数量の引き上げを進めながら、米国発祥の小売りチェーンとの取引も目指す。大谷選手が所属するドジャースの本拠地がある西海岸では、契約を機に特にアジア系スーパーでのお〜いお茶の販促を強化するという。

海外を加速するもう一つのきっかけが首脳陣の人事だ。茶摘みの最適期とされる「八十八夜」の5月1日、代表取締役会長だった本庄八郎氏が代表取締役を退いた。八郎氏は初代社長・本庄正則氏の弟。09年まで21年間社長を務め、国内緑茶市場で不動の地位を築いた中興の祖だ。時を同じくした大谷選手との契約で、大介社長の海外展開の構想が一気に現実化する。

みずほ証券の佐治広シニアアナリストは4月30日付のリポートで「米国を中心に、新規ユーザーを取り込む機会がある」と指摘する。だが、米国の4月の小売売上高(速報値、季節調整済み)は前月から横ばいとなり、市場予想(0.4%増)を下回った。個人消費が減速し、消費者が支出を選別する中、緑茶の需要を開拓するのは容易ではない。

さらに、乳酸菌飲料を販売するヤクルトは5月、大谷選手が所属するドジャースと複数年のパートナーシップ契約を結んだと発表。コーセーは23年から大谷選手を主力の化粧品ブランド「コスメデコルテ」の広告に起用した。各社が殺到する中で、契約相場が高騰し、伊藤園の24年4月期の広告費は前の期比14億円増の114億円に膨らんだ。

米消費市場の減速懸念など逆風が吹く中、大谷効果を最大化しながら国内のお〜いお茶に依存する体質からどう脱していくのか。大介社長の次の一打が注目される。

(八木悠介)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。