記録的な水準 アルバイトの時給は
「1188円」。
三大都市圏(首都圏・東海・関西)の、アルバイト・パートのことし3月の平均時給だ。
過去最高だったことし2月の1192円に次ぐ高水準で、5年前(1044円)と比べ13%の上昇。
調査したリクルートの「ジョブズリサーチセンター」は、人手不足に加え、物価上昇などを受けた最低賃金の引き上げが背景にあると分析している。
実際に、人手不足が深刻とされるサービス業の主な職種で具体的に見ると、この1年で3%を上回る賃上げが相次いでいる。
アルバイト時給の“逆転現象” 正社員がバイトに!?
日本では、非正規で働く人の平均の賃金水準が、時給ベースで、正社員の平均の7割ほどにとどまっている。
ところが、実際の現場では、冒頭のとおり、アルバイトの賃金が時給換算で正社員を上回る事例も出ている。
この“逆転現象”を話してくれたのは、ステーキ店やビアレストランなど都内を中心に国内外で137の飲食店を運営する会社だ。
コロナ禍の影響が徐々に解消し経済活動が回復し始めたおととし、深刻化する人手不足に対応するため、店で働くアルバイトの時給を段階的に引き上げていった結果、ホールスタッフの時給は1600円以上に。
その結果、新卒の正社員の給与を時給で換算してみたところ、これを上回っていたというのだ。
「ワンダーテーブル」の人事担当者、西島里沙さんは「私たちの店舗は東京の中でも、港区や渋谷区など特に求人募集の激戦区にある。同じエリア内で競合が賃金を上げれば、私たちも上げざるをえない」と話した。
アルバイトの賃上げを進めた結果、現場では異例の事態も起きた。
アルバイトの時給の高さが印象づいてしまい、去年、20代を中心に正社員6人が、社員からアルバイトに転じたというのだ。
事態を受けて会社ではその後、正社員の賃上げも行ったことで、今は逆転現象を解消したというが、ライバルを意識しながらのアルバイト時給の引き上げは、今も続いているという。
会社では、時給の引き上げだけでは必要な人員の確保に限界があるとして、研修の機会をアルバイトにも提供するなど、仕事のやりがいや充実感を高めようと、試行錯誤している。
非正規雇用の賃上げ 企業は苦心も
賃金と物価がともに上昇していく経済の好循環を目指す日本。
カギを握る、雇用者の4割近くを占める非正規で働く人の賃上げは進みつつあるが、今後も流れが続くか、その視界は決して良好とは言えないようだ。
全国の地域経済について報告をまとめた日銀の「さくらレポート」では、ことしに入り、正社員のベースアップや、人件費分の価格転嫁に前向きに動くという回答が広がる一方、アルバイト・パートの賃上げに向けた環境の厳しさを語る企業の声も、相次いで掲載されている。
「人手は競合との取り合いとなっている。新規出店の際に、一時的に通常の時給よりも2割引き上げることで、アルバイトをなんとか確保した」(1月、スーパー)
「アルバイトの人件費が、最低賃金改定を受けた時給引き上げにより増加しており、正社員のベアを実施する余裕がない」(1月、スーパー)
「年収の壁を意識しているパート社員が相応にいるため、人手確保のために賃上げを行うとかえって勤務時間を短縮する動きが広がり、人手不足が加速する懸念があることから、賃上げに踏み切れない」(4月、食料品製造業)
“賃金インフレ” 日本は…
アメリカでは、コロナ禍後の深刻な人手不足をきっかけに、時給の引き上げ合戦が繰り広げられ、そのコスト分の値上げが繰り返される“賃金インフレ”が発生した。
中央銀行にあたるFRBは今なお、インフレの抑制に苦慮している。
一方の日本。
働く人1人あたりの実質賃金が3月まで24か月連続のマイナスで、物価上昇に賃金の伸びが追いつかない状況が続いている。
ことしの春闘では大手企業を中心に、平均の賃上げ率は33年ぶりの高い水準で、非正規雇用の時給引き上げの動きも広がりつつあるが、賃金と物価の関係に詳しい三菱UFJリサーチ&コンサルティングの藤田隼平副主任研究員は「日本はアメリカよりも経済の成長力に乏しく、賃金インフレが起きる可能性は低い」と話す。
日銀の植田総裁は今月の講演で「企業の賃金や価格設定の行動はこのところ積極化してきており、この先、賃金と物価の連関が想定以上に強まり、物価が上振れる可能性はある」と述べた。
その一方で「先行きは、輸入物価上昇を起点とするコストプッシュ圧力が落ち着くとの想定のもとで、賃金上昇分を含め販売価格への転嫁の動きが一緒に弱まってしまうことがないか、注視する必要がある」とも指摘している。
賃金と物価が持続的に安定して上がる、という目標達成の難しさ。
その道筋を探り当て好循環に向かうかどうか、日本経済の先行きを見る上で、アルバイトやパートの時給の動きも見逃せない。
注目予定
日本銀行は大規模な金融緩和策など、過去25年間の金融政策について、効果と副作用を分析する「多角的レビュー」を進めていて、来週20日に外部の有識者を招いた討論会を開きます。
23日にはアメリカの中央銀行にあたるFRBが5月に開いた会合の議事録を公表します。
FRBは5月会合までの6会合連続して、金利の据え置きを決めていて、利下げの時期について言及があったのかどうかなどが焦点となります。
24日には日本で4月の消費者物価指数が発表されます。
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