厚生労働省が9日公表した3月の毎月勤労統計調査で、物価変動を考慮した実質賃金は前年同月比2.5%減と24カ月連続で前年割れし、マイナス期間が過去最長を更新した。春闘での高い賃上げが波及してプラスに転じるのは、「夏以降」(エコノミスト)の見通し。さらに輸入価格を押し上げる円安の再燃でプラス転換が遅れる可能性もあり、家計に厳しい状況は続きそうだ。(大島宏一郎)

 実質賃金 働き手が受け取る額面の給与に、物価変動の影響を反映させた指標。基本給や残業代など給与の合計を、モノやサービスの値動きを示す消費者物価指数で割って算出する。物価が給与以上に上がれば、賃金の実質的な価値は下がるため、働き手の購買力を示す指標になっている。

◆「収入が増えても手元に残るお金が減っている」

特売日でにぎわう野菜売り場=東京都墨田区の「スーパーイズミ業平店」で

 東京都墨田区のスーパーイズミ業平店で毎週火曜日にあるセール。約30種類の食品が税込み83円で売り出され、開店直後から多くの買い物客でにぎわった。「生活苦だから特売品しか買わない」(80代女性)、「野菜が安いので頻繁に来ている」(20代女性)。常連客らはそう口をそろえた。 30代の女性会社員は「賃金は上がったが、食費などの支出も増えており、手元に残るお金は減っている」と話した。同店の五味衛社長によると、セールの日は円安で高値となった輸入品のバナナが人気を集め、物価高を背景に食費を抑える買い物客が増えたという。  総務省の家計調査によると、2人以上の世帯が消費に使った金額は27万9868円(2月時点)。物価変動の影響を除いた実質で12カ月連続の前年割れとなった。  給与の額面に当たる名目賃金はプラスを維持するものの、実質賃金のマイナスが過去最長となった理由について、ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎氏は「円安がなかなか止まらず、歴史的な高さの物価上昇率が続いた影響が大きい」と分析する。

◆「7~9月期」か「10~12月期」か、割れる予測

 春闘の賃上げ率は現段階で5%超と近年最高だが、「春闘の結果が賃金に反映されるのは夏ごろになる」(斎藤氏)見通しだ。このため日本経済研究センターによる4月の調査では、実質賃金がプラスになる時期について、エコノミスト38人のうち15人が「7~9月期」と回答。14人は「10~12月期」とみている。  1ドル=150円台の歴史的な円安水準が続いているため、プラス転換がさらに遠のく可能性もある。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林真一郎氏は「円安や原油高などで物価が上振れる懸念もある。春闘での賃上げ効果が相殺されれば、生活にかかる費用が増える中、働く人の実感は厳しくなる。節約志向が強まりかねない」と話した。 

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