奥能登の中山間地を車で回り食料品の移動販売をする石川県輪島市の会社「能登ひばファクトリー」が4月、能登半島地震で休止していた運行を再開した。元日の輪島朝市の火災では、社屋と販売車2台を失った。それでも、買い物に不自由して待ち続ける高齢の常連客らの声に応え、被災を免れた販売車1台を走らせている。(郷司駿成)

仮設住宅で食品などを売る移動販売車「まんぷく丸」=石川県輪島市で

◆足が不自由な高齢者のために

 「久しぶりですね。会社が焼けて仕事できんかったんよ」。移動販売車「まんぷく丸」の販売員、堂前浩仁(ひろひと)さん(56)は4月下旬、輪島市門前町道下の仮設住宅でなじみの客との再会を喜んだ。足が不自由な高齢者のために敷地内を車で移動。地震の影響で輪島港で漁が行われていないため、能登町から仕入れた刺し身などを売って回った。  まんぷく丸は2022年夏に門前町で運行を開始。ルートは曜日ごとに三つに分かれ、平日の午前中に朝市を出発して地元の新鮮な刺し身や干物などを届けてきた。

◆山道進み戸別訪問「あんたは家族や」

 ほとんどが戸別訪問で細い山道を進み、家と家が100メートル以上離れた地域にも足を運んできた。約200戸ある常連客との心の距離も近く、堂前さんは「『あんたは家族や』と言われたこともある」とほほ笑む。  輪島朝市の火災発生時。同社事務局長の川口文子さん(67)は、避難した高台から祈るような気持ちで社屋のある朝市の方を見つめた。炎は激しく、爆発音が鳴り響く。次第に社屋の方まで火が広がったと聞き、「間違いであってほしかった」と振り返る。  2日後、社屋の様子を見に行くと、あたりに白い煙が立ち込め、建物の中には熱がこもっていた。建物は全焼し、販売車2台も全焼と半焼の被害を受けた。

地震で発生した輪島朝市の火災で全焼した移動販売車「まんぷく丸」

◆資金調達へクラファンを開始

 堂前さんは常連客の安否が気になり、発生から10日後、門前町の避難所を7時間かけて回った。「よく来てくれた」と声をかけられ、泣いて喜んでくれた人もいたという。「自分たちを待っている人がいる。やらなければならない」と再開への思いを強くした。  4月20日からは社屋の再建や移動販売を継続させる資金を賄うためのクラウドファンディングも始めた。川口さんは意気込む。「地域のためにたくさん走らせ、好きな物を買えて幸せになる高齢者を増やしたい」


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