能登半島近海の魚や動物を展示する「のとじま水族館」(石川県七尾市)では元日、ダイバーがえとにちなんだタツノオトシゴの着ぐるみで来場者を喜ばせていた。午後4時半の閉館時間まであと20分。震度6強の地震が襲った。館内の至るところで漏水し、ジンベエザメが泳ぐ巨大水槽の水は半分以上も失われた。飼育員たちは、生きものの命を守るために何をしたか。

◆ポンプの故障で水は白く濁った

 「水がない」。1月2日、展示・海洋動物科長の加藤雅文さん(53)は絶句した。1600トンの海水をたたえていた八角形の水槽は、6.5メートルあった水位が2.5メートルほどに下がっていた。水槽自体の破損はなかったが海水を循環させる配管が複数箇所で損傷し、漏水した。2匹のジンベエザメ、400〜500匹の20種の魚が密集して泳いでいる状態だった。  配管を応急処置して海水を注水した。1月7日までに元の水位を取り戻したが循環ポンプの故障で、魚のふん尿が処理できずみるみるうちに水質が悪化した。白く濁った水からは、ガラス近くを泳ぐ魚の姿しか見えない。海水を温める設備も故障した。

◆全国の水族館へ…救えなかった命も

 日本動物園水族館協会(JAZA)と協力し、全国の水族館に受け入れを依頼した。5日、ゴマフアザラシとコツメカワウソの各2頭を、県内のいしかわ動物園(能美市)に移した。翌日は、カマイルカ2頭とゴマフアザラシ1頭を、越前松島水族館(福井県坂井市)へ、道路の被災や渋滞の影響で普段の倍の4時間をかけながら移送した。  日本海側では、ここだけの展示で人気者だったジンベエザメは、オスのハチベエが9日、メスのハクが10日に死んでいるのを確認した。体長4メートルを超える巨体を受け入れられる施設は限られ、道路の損傷で、水槽を積んだ大型トラックを走らせる計画の見通しが立たなかった。  2月5日、9種63匹の移送が終わった。2011年の東日本大震災を機に、被災した生きものの避難の橋渡しを行っているJAZAの担当者は「今回はとにかく時間がかかった」と振り返った。加藤さんは「動物へのストレスは相当だったと思う。でもここで飼いきれなくなった以上、別の場所でいつも通り生きてほしかった」と話した。

臨時休園が続くのとじま水族館=石川県七尾市能登島曲町で

 展示再開のめどが立たない中、職員の励みになっているのがファンの声援だ。水族館への支援を募るクラウドファンディングには、3000万円以上が寄せられた。加藤さんは「いつか、地震前のようなにぎわう水族館を取り戻したい」と誓う。(染谷明良) 

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