◆目撃証言は「客観的裏付けの乏しい状態」
名古屋高裁金沢支部の再審開始決定を受け、喜ぶ前川彰司さん（中）＝10月23日、金沢市で
「心理学者作成の鑑定書をはじめとする新証拠を検討するまでもなく（中略）請求人を犯人と認めることはできない」 10月下旬の福井事件の再審開始決定で、名古屋高裁金沢支部は弁護側が提出した2種類の供述心理鑑定を評価しなかった。事件の直接証拠は乏しく、前川彰司さん（59）が犯人とされた確定判決は、複数の知人による「血の付いた前川さんを見た」「犯行告白を聞いた」などの目撃証言が最大の根拠だった。 だが、第2次再審請求の証拠開示で、知人が「前川さんに会う前に見た」と話していたテレビ番組の具体的なシーンが、事件当夜には放送されていなかった事実が発覚。その捜査報告書を検察側が有罪確定前に把握していたことも判明し、目撃証言は「客観的裏付けの乏しい状態」として信用性が大きく損なわれた。福井女子中学生殺害事件 1986年3月19日夜、福井市の市営住宅で中学3年の女子生徒＝当時（15）＝が何者かに殺害され、1987年3月に前川彰司さんが逮捕された。前川さんは一貫して否認。一審福井地裁は無罪だったものの、二審名古屋高裁金沢支部の懲役7年の逆転有罪判決が確定。出所後の第1次再審請求で再審開始が決定したが、検察側の異議申し立てで名高裁が取り消した。第2次再審請求で今年10月に再審開始が確定した。
◆一部の目撃証言は「主観的な印象を述べるにとどまる」
袴田巌さんの姉ひで子さんからのビデオメッセージを神妙な面持ちで見つめる前川さん
こうした経過をたどり、鑑定の評価自体は避けられた今回の決定。鑑定を手がけた京都大の大倉得史教授（法心理学）は「少しがっかりもしたが、供述の信用性を判断するに当たり、決定文は『科学的知見』に触れた。ちょっとは仕事ができた」と話す。 一部の目撃証言について、決定は「供述者の心理や行動傾向などの科学的知見を利用したり、判断の客観化を担保するような基準を示したりして合理的に説明することを指向した形跡」がないと断じ、「主観的な印象を述べるにとどまる」と確定判決の信用性の認定を退けたからだ。◆2つの仮の設定に立って供述をチェック
大倉氏が担当したのは、鑑定の一つの「対立仮設検討型供述分析」。この手法では、...残り 2321/3401 文字
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