笹子トンネル天井板崩落事故から12年 追悼慰霊式

修繕など対策 国が実施状況を公表

2012年に山梨県にある中央自動車道の笹子トンネルの天井板が崩落して9人が死亡した事故を受け、国は全国のトンネルや橋の管理者に5年に1度の点検を義務づけました。

2014年度から2018年度までの5年間に行われた点検で5年以内に修繕などの対策が必要だと判定された施設について、国が対策の実施状況を公表しました。

2023年度の点検の結果です。

【トンネル】
4326か所のうち4159か所、率にして96%で対策に着手していたということです。

【橋】
6万6354か所のうち
▽国や高速道路会社が管理する5872か所は、すべて対策に着手

▽都道府県や政令指定都市が管理する1万9814か所は、92%にあたる1万8238か所で着手しています。

▽一方、市区町村が管理する4万668か所では、対策に着手したのは3万1891か所と78%にとどまっています。

トンネルや橋 撤去を検討する自治体が急増

こうした中、国土交通省が全国1788の自治体に行った調査では、トンネルや橋を撤去することや撤去したうえで、う回路を整備することなどを検討しているのは
▽2019年度は252自治体と全体の14%でしたが
▽2023年度は1560自治体と87%に急増しています。

国土交通省は、財政難や人手不足を背景に自治体によるインフラ施設の維持管理が難しくなっていることに加え、4年前の2020年度に撤去事業にも補助が出る制度を設けたことが急増の理由ではないかとしています。

【鳥取】老朽化した橋 存続か撤去か検討続く

地域の老朽化したインフラ施設に、どう対応するかが大きな課題になっています。

1929年に、鳥取県米子市の日野川に建設された全長360メートル余りの日野橋は、アーチ型に鉄骨を組んだ美しい景観で知られ、国の登録有形文化財となっています。

しかし老朽化のため、1995年からは通行できるのは歩行者と自転車、オートバイに限られているほか、2000年には鳥取県西部地震の影響で橋脚にひびが入り、補修工事のため6年半にわたって通行止めになりました。

老朽化に加え、橋に使われていた塗料から有害物質が検出されたことなどから、ことし3月に米子市は学識経験者や地元の代表者などからなる委員会を立ち上げ、日野橋を存続させるかどうか検討を続けています。

11月の委員会では、市の担当者が橋を存続させた場合と撤去した場合のそれぞれの費用の見積もりを示しました。

それによりますと、存続させる場合、20年おきに橋の塗り替えと修理が必要になることなどから100年間でおよそ71億円が必要だということです。

一方、撤去する場合は6年間の工期が必要で、費用はおよそ28億円にのぼると試算しています。

市では今後、市民3000人を対象にアンケートなどを行って、日野橋の今後の在り方などについて意見を求めることにしています。

日野橋を使って高校に通っている男子生徒は「3年間通ったので、個人的には壊してほしくないですが、お金のことを考えたら撤去してもよいのかなと思います」と話していました。

毎日、橋を通っているという80代の男性は「この橋は絶対残してほしいです。毎日使っていますが、昔からの由緒がある橋です。人間の歴史のなかで文化は大事で、お金の問題ではないと思います」と話していました。

【茨城】市と住民が話し合い 橋の“撤去”を決定

一方、住民の同意を得て、老朽化した橋の撤去を決めた自治体があります。

茨城県高萩市にある「菖蒲橋」は老朽化によって落橋し、2016年から通行止めが続いています。

市と住民との話し合いでは架け替えを求める声も上がっていましたが、台風などで橋が崩落した場合、川をふさいで水があふれるおそれがあり、対応を急ぐ必要があることに加え、掛け替えの工事やその後の維持管理に多額の費用がかかることから、高萩市はことし2月の住民説明会で撤去が望ましいとする方針を伝えたということです。

この際、撤去によって利便性が低下することへの代替案として、近くにある別の橋につながる農道を歩行者や農業用のトラクターが通れるよう拡幅する方針を伝え、同意を得たということです。

高萩市都市建設課の石川宏課長は「住民の合意形成が必要なうえ、利便性や安全性を考慮し、財政状況なども検討してバランスをとるのは非常に難しかった。橋や道路は、計画に基づいて段階的に修繕や維持を進めることが前提だが、計画に基づくもの以外の修繕なども発生するため、非常に難しさを感じている。市の財政状況などとのバランスをとりながら判断していきたい」と話していました。

市の方針について、菖蒲橋の前に住む薄井充由さんは「橋の草刈りを行うなど長い間、関わってきた橋なのでなくなってしまうのは寂しい。掛け替えてほしいという気持ちはあったが、人口が減れば市役所の収入も無くなると思うので、極力、工事などはしない方がいいという結論になることは納得しないといけない」と話していました。

また、菖蒲橋の近くに住む大部淳さんは「橋をなくすという市の方針はうすうす感じてはいた。老朽化していく橋のメンテナンスも必要になるだろうから、しかたがないとは思う。撤去の代わりとなる代替の農道の拡幅は、早く進めてほしい」と話していました。

専門家「住民にきちんと説明し 時間かけて議論を」

インフラの維持管理に詳しい北海道大学の長井宏平教授は「人口減少とともにインフラの老朽化が進むなか、限られた予算のなかでどのようにマネジメントしていくかが課題となっている」指摘しています。

修繕して使い続けるか、撤去するか、自治体の判断の難しさについて「自治体では、技術者や担当者の人員が少ないなかで、橋の劣化の度合いや利用状況、財政面など、非常に複雑な検討が求められている。集約・撤去の判断にあたってガイドラインなどもない状況で、自治体も集約・撤去に関心自体はあるが、具体的な方法を見いだせていないのが現状だ」と話しています。

そのうえで「急に集約・撤去となると、住民も驚いてしまい受け入れがたいと感じると思う。自治体としてインフラがどのような状況で、どれくらいお金がかかっているかを住民にきちんと説明して、時間をかけて議論していくことが必要だ」と話しました。

青木官房副長官「老朽化対策しっかりと取り組んでいく」

青木官房副長官は記者会見で「痛ましい事故は二度と起きてはならず忘れてはならない。事故を教訓に全国でインフラの老朽化対策に取り組み、法定点検の結果を踏まえ修繕などを順次、実施している。引き続き橋やトンネルなどの老朽化対策にしっかりと取り組んでいく」と述べました。

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