出産まもない母親の心身のケアや育児サポートなどを行う「産後ケア事業」は、令和3年度に制度化され、全国の9割近くの自治体が実施していますが、おととし、横浜市から委託を受けた助産院で預かっていた生後2か月の女の子が死亡する事故が発生し、安全対策が課題にあがりました。

事故を受けて、こども家庭庁はガイドラインの見直しを行い、安全対策の強化に向けて実施主体の自治体に対し、
▽子どもの睡眠中の窒息事故などを防ぐための具体的な事故防止策や
▽一時的に子どもを預かる場合は、短時間であっても、子どもだけの状況にならないようにするための人員配置
などについてマニュアルを策定し、委託先の事業者と共有することを求めています。

こども家庭庁が昨年度、自治体から事業を委託された事業者を対象に行った調査では、回答した921事業者のうち、マニュアルで安全対策に関する内容を定めているのは255で、3割程度にとどまり、対応にばらつきがあることがわかりました。

そのため、こども家庭庁は、自治体に対し12月末までに新たなガイドラインに沿ったマニュアルの策定を求めるとともに、国も自治体や事業者への研修を実施するなどして、着実に対策の強化を進めるとしています。

産後ケアで長女を亡くした両親は

おととし、横浜市が委託した助産院で産後ケアを利用中に、生後2か月だった長女が死亡した両親です。

母親は、長女の茉央ちゃんと産後ケア事業を利用した経緯について、「産後うつの傾向があり、保健師から産後ケアというのがあるので、ゆっくり体を休めたらどうですかと言われ、そういうことなら、ぜひ利用したいと、すがるような思いで利用した」と当時を振り返りました。

茉央ちゃんは、母親が就寝中に助産師が別室で預かり、食事の準備などで部屋を離れて戻ったところ、呼吸をしておらず、搬送先の病院で亡くなりました。

死因は、ミルクをのどに詰まらせた窒息死だったということです。

両親は横浜市の安全管理が不十分だったなどとして、市と神奈川県助産師会、それに担当した助産師に対し、損害賠償を求める訴えを起こし、これまでの裁判で、市側は「市の事業では母子を分離して子どもだけを預かることを想定しない」などとしたほか、助産師会と助産師は「30分弱の間に2回顔色を確認していた」などと、いずれも争う姿勢を示しています。

横浜市によりますと、当時、市には産後ケア事業に関するマニュアルはなく、ことし8月に、母親の入浴中などに、子どもを一時的に預かる場合は、必要最小限の時間で、ほかの業務を行わず、子どもだけの状況にしないなどの安全対策を盛り込んだ手引きを新たに策定し、事業者と共有したということです。

今回、国がガイドラインを見直し、安全対策を明記したことについて、父親は「子どもの安全確保について明文化されたことはよいことだと思う一方で、具体的な方法について書かれているわけではなく、実施するところによってバラバラになってしまうのではないかという不安を感じた。同じ事を起こさないために、どうしたらよいか考えてほしい」と話していました。

専門家 “非常に大事な事業 子どもの安全基本に対策を”

子どもの安全の問題に詳しい東京都立多摩北部医療センターの小保内俊雅小児科部長は、産後ケア事業のガイドラインに安全対策が明記されたことについて、「保護者に寄り添っていくということで、この事業は非常に大事な事業だと思っている。やはり子どもの安全というのが、まず基本にあり、そのうえで支援や対策が花開いていく。こんなことをしたら、こんなリスクが起きるという想像力を働かせて安全対策を実施してほしい」と指摘しています。

そのうえで、「今わかっている危険因子をきちんと理解し、それに対する安全策を講じていくというのが、まず第1だが、私たちが予想もしないことが起こらないという保証はない。行政を中心に、こんなヒヤリハットがあったということを共有して、各事業者に浸透する形で進めていかなければいけない」と話していました。

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