戦時中の1942年、水没事故により朝鮮半島出身者を含む183人が亡くなった山口県宇部市の海底炭鉱「長生炭鉱」で、地元の市民団体「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」が、炭鉱内の潜水調査に乗り出した。国が調査しない中、井上洋子共同代表らが6日、国会内で記者会見を開き、海底に眠る遺骨の収集に向けて市民社会の協力を求めた。(森本智之)

◆やっと潜水調査が可能と確認できた

 調査は10月29、30両日に実施した。遺骨は見つからなかったが、収穫はあった。坑道に大きな崩落はなく命綱が続く180~200メートルまで入れた。崩落事故は坑道への出入り口「坑口」から約1キロ先で発生し、その手前からがれきで崩落している懸念があった。

長生炭鉱の出入り口に当たる坑口から潜水調査に入るダイバーら=10月30日、山口県宇部市で(長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会提供)

 実際、内部は泥で濁って視界10~20センチほどしかなく金属や木製の残骸も落ちていたが、潜水調査が可能と確認できたという。刻む会に対し、ダイバーの伊左治佳孝さんは「(地面に落ちている物を)手に取ったが、遺骨ではなかった。継続すれば遺骨は回収できると思う」と話したという。  次回は2025年1月31日~2月2日に調査予定。生還者の証言で事故直後に多くの人が集まったとされる場所がさらに100メートルほど先にある。井上氏は今後の課題として、調査中の崩落を防ぐための坑口の補強工事の実施や、視界を確保するために汚濁を抑えることを挙げ、「解決のため社会の皆さまの提案や技術支援を求めたい」と頭を下げた。  さらに「伊左治さんはこの3日間で一片でも良いから必ず遺骨を持って帰ると決意されている。私たちも期待している」とも。例年、事故が発生した2月3日に韓国の遺族を招いて慰霊式を開いてきたが、遺骨が見つかる可能性があることから前倒しを検討していることを明かした。

◆国は動いてくれない「戦没者は戦闘で亡くなった人のみ」

 遺骨回収への期待が高まる一方、会見の直前には井上氏が社民党の大椿裕子参院議員と共に、厚生労働省や外務省の担当者と面談し、国に調査への関与を求めたが、これまでと同様「ゼロ回答」だったという。

長生炭鉱の潜水調査について話す「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」の井上洋子共同代表(中)=国会で(坂本亜由理撮影)

 戦没者遺骨収集推進法は戦没者の遺骨収集を「国の責務」と定めるが、国の言う「戦没者」とは戦闘で亡くなった人を指し、炭鉱の労働者を国は「戦没者ではなく法の対象外」とする。  これとは別に朝鮮半島からの民間徴用者の遺骨について、2005年の日韓協議を受け返還を続けているが、長生炭鉱については「埋没位置や深さが明らかでなく、発掘の実施は困難」と調査すら行ってこなかった。犠牲になった日本人労働者に至っては担当部署すらない。10月に就任した福岡資麿厚労相は今月5日の記者会見で「国の実地調査の範囲を超えている」とあらためて否定的な考えを示した。  井上氏は「調査が始まった段階での大臣の発言に憤りを感じた。国は戦没者の定義を広げ、戦争が原因で亡くなった人全てを対象にするべきだ」と述べた。会見に同席した大椿氏も「これだけ市民が動いてくれ、お膳立てをしてくれた。ここから先は日本政府がやるべき仕事だ」と訴えた。 

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