世界遺産・金剛峯寺(和歌山県高野町)を中心に日本仏教の聖地である高野山。伝統的な建物が並び、静かな空気に包まれる町に、モダンな外観のゲストハウス「Kokuu」がある。宿坊に泊まる客が多い中、オーナーの高井良知さん(46)は「高野聖のように、各地で高野山のことを伝えてほしい」と、老若男女の訪問客を今日も迎える。(共同通信=塚田晴菜)
9月上旬、ポーランドからの客2人が到着した。高井さんは椅子を勧め、自らも向かい合って座ると、地図を広げて町の案内を始めた。高野山真言宗の総本山である金剛峯寺など数々の名所を英語で細かく説明し、さらに標高約800メートルにある町の天候や周辺の飲食店や土産物店の営業時間も伝え、ゲストを送り出した時にはチェックインから約15分がたっていた。
「高野山の暮らしでは宗教が奥深く根付いている。初めて訪れた客にとって、簡単に魅力に触れられる場所ではない。長くない滞在の中で最大に楽しんでほしい」と2012年の開業以来、全ての客に提供するサービスだ。ホームページにも、瞑想や写経など高野山で体験できることや年中行事を詳細に掲載する。
「ここを訪れた人を通じて高野山の魅力が世界に広がっていったら幸せ」と高井さん。平安時代以降、高野山が全国に知られるようになった背景には、全国を回って信仰を伝えた高野聖の存在がある。その役割は今、各地からのゲストが担っている。
オープン当初、宿泊施設といえば宿坊という場所で、ゲストハウスが受け入れられるのか不安もあった。しかし今は、宿坊を営む寺が主催する「ナイトツアー」を客に紹介するなど、「表現は違えど、思いが同じ仲間」として共生している。
高野町には、年間で人口の500倍を超える約140万人もの観光客や参拝者が訪れる。オーバーツーリズムが課題となる中、高井さんは「魅力を外に伝えてくれる客は貴重な存在」とし、町が検討する観光客への独自課税について「用途を明確に」と話した。
◎高野聖 高野山を拠点に全国を回り、庶民らに向けて空海への信仰などを説いた僧。平安時代、大火などで荒廃した高野山の復興のための寄付集めが起源とされる。納骨や参詣を勧めて、高野山の経済を支え、浄土信仰を広めた。布教しながら行商をする者もいた。織田信長に謀反を起こした家臣の残党をかくまったことをきっかけに、弾圧を受けた。
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