自民党本部と首相官邸が火炎瓶などで襲撃された事件から2日で2週間。公務執行妨害容疑で現行犯逮捕された、埼玉県川口市の臼田敦伸容疑者(49)は、警視庁公安部の調べに黙秘を続けている。容疑者と2人で暮らしていた父親は息子の異変に気付くことはなく、動機を測りかねている。「普段から会話は少なかったが、乱暴な性格ではなかった。1人で考えを深め、極端な行動に走ってしまったのか」と悔やむ。(小倉貞俊)

車が突っ込み騒然とする首相官邸前=10月19日、東京・永田町で(河口貞史撮影)

◆困窮者向け炊き出しに参加、選挙出馬を模索したが断念

 「大変な事件を起こしてしまった。犯した罪は償ってほしい」。父で歯科医師の篤伸(とくのぶ)さん(79)は取材に、困惑した表情を浮かべた。  臼田容疑者は県内の私立高校を卒業後、寮住み込みの長距離トラックの運転手など、複数の仕事を経験。篤伸さんが後妻と離婚した15年前ごろ、自宅に戻ってきた。この頃「社会的な活動、人権活動に関心を持ち始めた」といい、死刑廃止運動に名を連ねたり、困窮者向けの炊き出しに参加したりしていたという。  東日本大震災を機に反原発運動に関わり、2012年には福井県で関西電力大飯原発の再稼働への抗議活動に参加。震災がれき受け入れを巡る大阪市の住民説明会で業務を妨害するなどして逮捕され、執行猶予付き有罪判決を受けた。国政選挙への出馬を模索したが、供託金が足りず断念したこともあった。

◆ここ数年はバイトと犬の散歩、自室でパソコンと向き合う日々

 ここ数年は活動から遠ざかり、当時の仲間とも疎遠に。配達員などのアルバイトをして生活費を稼ぎながら、毎日の飼い犬の散歩のほかは、2階の自室でゲームなどパソコンに向き合う日々を過ごしていた。室内やガレージは臼田容疑者の所有物が散乱。犯行に使われた道具なども保管していた可能性があるが「息子の生活に口出しや干渉はしなかったので、全く知らなかった」(篤伸さん)。  最後に顔を合わせたのは、一緒に飼い犬の世話をした10月17日夜。事件前夜の18日はガレージに車がなく「久々に配達の仕事が見つかり、出かけたのかな」と気に留めなかったという。  昨年3月まで書き込まれていた臼田容疑者のものとみられるX(旧ツイッター)には「暴れる力で社会を変えよう」「決起こそ社会を変える」といった文言や「選挙粉砕!」「誰しもが立候補でき誰しもが投票権を持たない限り、暴力的になるのは必然である」など選挙制度への批判が投稿されていた。

◆「話し相手もなく、極端な形で爆発してしまった」と悔やむ父親

 篤伸さんは思い当たる動機を「自民党政権への抗議行動を、衆院選のタイミングで起こそうとしたのかもしれない」と語るが、違和感を拭えないでいる。「話し相手もなく社会とのつながりも薄れる中、自分の殻に閉じこもったまま思いを膨らませ、極端な形で爆発させてしまったのだろうか」と声を落とした。

 自民党本部と首相官邸の襲撃事件 衆院選公示後最初の週末だった19日早朝、東京・永田町の自民党本部に男が軽ワゴン車で乗り付け、火炎瓶を5回ほど投げ込んだ。軽ワゴン車は約600メートル離れた首相官邸前まで走り、防護柵に突入して停車。男が火炎瓶3本や発炎筒を投げ付け、車内に火を付けた。警察官に銃を向けられて投降し、臼田敦伸容疑者が現行犯逮捕された。党本部前で警戒中の機動隊員3人が煙を吸うなどし、喉に軽いけがを負った。車内からガソリン入りポリタンク(容量18リットル)16個やカセットコンロ用ガスボンベが見つかった。



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